日 時:2011年7月29日 (金) 13:40~17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階 318号室
主 催:京都大学アフリカ地域研究資料センター
プログラム
13:40-14:00 Introduction Itaru Ohta (Kyoto University)
14:00-15:00 “Bad Friends and Good Enemies: Constructions of Peace and Violence in the Samburu-Pokot-Turkana Triad (Northern Kenya)” Jon D. Holtzman (Western Michigan University)
15:00-15:15 Break
15:15-16:15 “The Role of Cross-Cutting Ties in the Cameroon Grassfields” Michaela Pelican (University of Zurich)
16:15-16:30 Break
16:30-17:30 Discussion Motoji Matsuda (Kyoto University)
報告
「趣旨説明」
太田至(京都大学)
1990年代以降、アフリカでは一般市民を巻き込んだ紛争が頻発した。現在、これらの紛争で生じた社会的混乱をいかに解決するのかが紛争を経験したアフリカ社会の大きな課題となっている。これまでに、国際社会が国際刑事裁判所やPKOを通じて、またNPOやNGOが市民社会を先導するようなかたちで、紛争を経験した社会の再生を試みる活動が行なわれきた。しかし、そのような活動から得られた効果は限定的であった。
本プロジェクトでは、アフリカ人がみずから創造・蓄積し、運用してきた知識や制度(=潜在力)を解明し、それを紛争解決と社会秩序の構築(=共生)のために有効に活用する道を探究することを目的とする。
“Bad Friends and Good Enemies: Constructions of Peace and Violence in the Samburu-Pokot-Turkana Triad”
Jon Holtzman (Western Michigan University)
ケニア北部に住む牧畜民、サンブルとポコットは1850年代に当時激化しつつあった紛争を儀礼の執行をとおして沈静化させた。その儀礼では、両者が互いの成員を殺し合わないことを誓い、2つの民族間には和平がもたらされた。その誓約は2006年に紛争が勃発すると破約した。しかし、2006年以前からサンブルとポコットの間に協力関係が見られることは稀であり、また通婚の事例も少なかったことから、彼らが本当の意味で友好関係を形成していたとは言い難い。サンブルとポコットの間で保たれた和平は友愛によって成立したわけではなく、儀礼に従うかたちで達成されたものであった。そのため、2つの民族間に武力紛争こそ生じることはなかったものの、感情的には互いに嫌悪感を募らせるというねじれた関係が生み出されたのである。 一方で、サンブルはトゥルカナと常に紛争状態にある。しかし、サンブルとトゥルカナとの間には協力的な関係や通婚の事例が多く見られたり、多くのトゥルカナがサンブルと一緒に生活しているという事例が見られたりする。すなわち、サンブルとトゥルカナの間に紛争が絶えることはないものの、2つの民族の関係は親密なものであることが伺える。このことから、親密な関係があるからこそ、2つの民族の間には紛争が絶えないとも考えられる。
このような事例は現地の潜在力を生かして達成された和平と国際社会などの外部圧力によってもたらされた和平を理解する際に役立つであろう。また、この事例から強制的に争いを沈めることと、和平をもたらすことは異なるものであり、平和と紛争は必ずしも対立する概念ではないことを伺い知ることができる。
“The Role of Cross-Cutting Ties in the Cameroon Grassfields”
Michaela Pelican (University of Zurich)
横断的紐帯(Cross-cutting ties)とは1960年代にMax Gluckmanによって生み出された概念で、複数の民族、文化、社会を横断するような関係である。そして、このような関係は複数の民族間の通婚を促進し、友好的な関係をもたらしていると言われてきた。カメルーン北部のGrassfields peoplesと呼ばれる人々とボロロやハウサの関係を見ると、確かに横断的紐帯は複数の民族のかかわりを密接なものにし、民族間の対話を促す役割があると考えられる。しかし、紛争が勃発し、それが激化するとともに、通婚などによって複数の民族に帰属意識を持つ人々は、それぞれの民族からの批判や嫌がらせに晒されることになる。カメルーン北部の事例を見る限り、横断的紐帯の多少と紛争の強度や頻度との間に相関関係を見出すことはできない。横断的紐帯は紛争後の平和構築と複数民族の共生にある程度寄与することが外部セクターによって期待されてきたが、カメルーンの事例では、紛争の勃発により横断的紐帯は切断され、紛争後には、対立しあった民族の成員は互いに接触を断つ忌避戦略(avoidance strategy)を選択する傾向にある。
「質疑応答」
質疑応答では、牧畜民の社会には日常生活に埋め込まれたような紛争が存在するため、このプロジェクトで取り扱う「紛争」を定義しなければ、何をもって紛争解決となるのか混乱を招くという点が話しあわれた。また忌避戦略のように、親密な関係を回避するような行為は、異なる民族間に誤解を生じさせ、紛争を更に激化させる可能性がある点が確認された。(伊藤義将)