[第5回アフリカの紛争と共生セミナー]「2014年度海外派遣者報告会」(2015年05月16日開催)
日時:2015年5月16日(土) 10:30-11:40
場所:京都大学稲盛財団記念館、3階、小会議室II
プログラム
10:30-10:40
太田至(京都大学)
「趣旨説明」
10:40-11:10
松本知子(名古屋大学大学院)
「セネガル社会におけるイスラーム教育の変容:フランコアラブ学校を事例として」
11:10-11:40
八木達祐(立命館大学大学院)
「スラムツアーの現在-観光と住民のコンフリクトを中心に-」
要旨
セネガル社会におけるイスラーム教育の変容:フランコアラブ学校を事例として
松本知子(名古屋大学大学院)
セネガルでは、1960年の独立以降、政教分離の原則を憲法に謳ってきた。国民の9割以上がムスリムである中、公教育においてはフランス植民地政府が導入した世俗的カリキュラムを引き継いできたのである。しかし、ワッド大統領時代の2001年に教育法が改正され、公教育へイスラームが導入されるようになった。まず、カリキュラムに宗教科目が導入され、次いで、フランス語とアラビア語によるバイリンガル教育を実施する公立の「フランコアラブ学校」が建てられ、その数は年々増加している。また、ノンフォーマル教育機関に位置付けられていた私立の「フランコアラブ学校」も、公立の「フランコアラブ学校」と同じカリキュラムの使用や教育施設の整備などの条件を満たすよう努力し、政府に認可を求めるようになってきている。さらに、セネガルの伝統的なクルアーン学校である「ダーラ」を現代化しようとする政策が登場し、認可されたダーラに通うことと公教育を受けることを同等に評価していこうとする動きもある。このようなイスラーム教育を取り巻く環境の変化は、これまで公教育側からはインフォーマルに位置付けられていたものの、長きに渡って地元のイスラーム教団の導師の元で体系的かつ組織的に行われてきたイスラーム教育のあり方に影響を与えている可能性があると考えられる。
本発表では、イスラーム教育の公教育への導入に伴い、従来のイスラーム教育のあり方がどう変容しているかを、フランコアラブ小学校を事例に考察する。発表者は、2014年と2015年の2回に渡り、カオラック州とカフリン州の公・私立フランコアラブ小学校計4校において、生徒、保護者、教員及び視学館を対象としたインタビュー調査を実施し、関係資料を収集した。そして、学校制度、生徒と親のフランコアラブ学校への期待、及び彼らのイスラーム教育に関する行動の変化といった側面に着目しながら、伝統的なイスラーム教育のあり方の変容について質的分析を行った。
公立のフランコアラブ小学校では、カリキュラム、教科書、資格試験の整備が大分進んでいる。2014年度には、アラビア語による資格試験も用意され、合格率は決して高くないが、卒業資格を得られなくとも中学校へ進級できる政策が実施されているため、9割以上の生徒が中学校へ進学している。私立フランコアラブ学校は、独自のカリキュラムに基づいたプログラムと政府のカリキュラムに基づいたプログラムに分かれ、それぞれにおいて政府の承認を受けようとする動きがある。私立校に通う生徒は、公立と違って生徒の年齢が全体的に上がる。ダーラを経由して入学する、または、一旦就職、あるいは結婚・出産してから学校へ戻るというケースが含まれるためであり、公立小学校とは学校の位置付けが違っていると言える。
公立私立とも、児童と親が学校にまず期待することは、よきムスリムになることである。そして、多くの親がイスラームの実践を学校の成果として挙げている。私立校ではこの傾向がより強く、イスラームの基盤を作ることが優先され、フランス語またはその他の世俗的科目は、社会で生きていくための知識であると捉えている。私立の生徒や教員の中には、学校の敷地内に住み、学校を経営するマラブー(イスラーム教団の導師)に生活の面倒を見てもらっている者も多く、教育はイスラーム信仰の実践の一部と捉えているように見られる。
フランコアラブ小学校は、イスラームと世俗社会を生きる知識を得られる場として、人々のニーズに応えている。また、フランコアラブ学校へ通う子どもが増え、それまで就学前にダーラやアラビア語学校へ通う習慣が少しずつ変化してきている。さらに、公式化されたカリキュラムにおける学習スタイルや指導内容は、従来のイスラーム教育のものとは違っていることも観察された。
スラムツアーの現在-観光と住民のコンフリクトを中心に-
八木達祐(立命館大学大学院)
1990年代初頭以降、第三諸国では「貧困街」を巡回するスラムツアーが、経済発展を目指す第三諸国にとって導入がしやすいことや貧困削減を目指すプロプアーツーリズムの展開を背景に拡大してきた。先行研究では観光客のスラムツアーへの期待や「まなざし」、スラム体験を通じた認識の変化、あるいは国家や国際機関、NGO団体による観光開発の推進をめぐる議論に集中しており、観光客のまなざしを受ける地域住民が「生活世界の観光地化」にいかに向き合い対処しているのかは十分に明らかにされてこなかった。
本研究は、ナイロビを調査地とし、スラム住民自身はそのまなざしや関与/介入を受けて、いかに主体的に場の意味づけや社会空間を変容・創出するかを明らかにすることを目指している。本調査では、ケニア(ナイロビ)、南アフリカ(ジョハネスバーグ、ケープタウン)の3地域のスラムツアーへの参与考察により、各地域のツアーの特色とそれに起因するツアーと地域住民とのかかわり方の違いを明らかにした。南アフリカでは大半の会社でツアーの規格化がみられ、観光客が訪れる場所やコースはアパルトヘイト関連の観光地に限定されており、住民の生活世界から一定の距離を保ったとして観光として企図されていた。これに対してケニアでは、ネットカフェ店員の副業としてガイド業に従事する若者をはじめ、「インフォーマルセクター」によるツアーが多数展開されていた。つまりケニアでは住民の日常的な生計実践や社会関係の延長線上に組まれたものとなっており、ツアーを通じた住民と観光客との関係は偶発性な出会いや衝突に開かれていた。
今後の研究では生活世界の観光化がよりダイナミックに変容・展開すると予想されるケニアのスラムツアーをフィールド対象と定め、その展開をより洗練された南アフリカのツアーと比較する形で研究を進めていく。その際、スラム住民が自分たちの生活世界の諸側面の商品化に操作を加えたり、観光客に自らの社会的世界を見せていく際に駆使する「商品化されたペルソナ」という表現技法に着目してその可能性を検討する。たとえば、アフリカの都市人類学では、住民間の異民族同士で互いをステレオタイプ化したイメージで呼び合うことを通じて他者の異質性を強制的に了解し、それをもとに冗談関係のような親密さを醸成していることが指摘されてきた。本研究では、このような日常的な社会関係をやりくりするためのペルソナを使い分ける技法が観光客に対してどのように応用されているのかに注目することで、彼らによる「生活世界」の観光地化の対処を明らかにする。それを通じて、スラムツアーをめぐる倫理的な問いを考察したい。
[第23回公開ワークショップ/政治・国際関係ユニット第13回研究会]「ジンバブエにおける土地と農業改革:社会構造的含意」(2015年3月9日開催)
日時:2015年3月9日(月)16:00~18:00
場所:東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1
(アクセスhttp://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map02_01_j.html)
共催:
日本アフリカ学会関東支部
東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム (HSP)グローバル地域研究機構(IAGS) アフリカ地域研究センター
プログラム
タイトル:ジンバブエにおける土地と農業改革:社会構造的含意
発表者:サム・モヨ(アフリカ農業研究所教授、ジンバブエ)
司会:峯陽一(同志社大学教授)
使用言語:英語
[第22回公開ワークショップ/北東アフリカ・クラスター第6回研究会]「農業革新と参加型アプローチ 」 (2014年11月25日開催)
日時:2014年11月25日(火)10:00〜17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階、大会議室
「農業革新と参加型アプローチ」
本シンポジウムでは、政府開発援助でエチオピアにおいて実施されている「農民研究グループアプローチを通じた適正技術開発普及プロジェクト」から招いた4名のエチオピア研究者が、同プロジェクトが実践する農業研究の取り組みについて報告します。加えて日本国内やアフリカ、アジアの農村での研究実践についても事例を共有します。最後に、研究者と農民の関わり方や参加型アプローチの有効性とその制度化について全体で議論をおこないます。
研究者の方はもちろん、農業・農村開発に関心を持つ援助実務者や学生、一般の方のご参加をお待ちしています。
プログラム
10:00白鳥清志(JICA)
趣旨説明
10:10
第一部「参加型アプローチと技術開発」
モデレーター:パパ・サリウ・サール(京都大学)
1-1. 「南部エチオピアでの農民参加型研究によるテフ、インゲンマメ、小麦の生産技術改善」
ファニュエル・ラーカマリアム(ワライタソド大学)
1-2. 「長野県中山間地の農業振興のためのトウガラシ伝統品種の再評価と新品種の開発」
松島憲一(信州大学)
1-3. 「理想的な住民主体の開発に向けての地域研究の役割について:ケニア西部における土壌流亡防止策を例に」
山根裕子(名古屋大学)
1-4. 「バングラデシュにおける実践的地域研究」
安藤和雄(京都大学)
12:10 昼食
13:30 第二部「参加型研究アプローチの制度化」
モデレーター:フェレケ・ウォルディエス・ガモ(アルバミンチ大学)
2-1. 「アダミツル農業試験場における研究者を対象とした農民研究グループ(FRG)アプローチ研修」
ケディル・ワコ(オロミア州アダミツル農業試験場)
2-2. 「アムハラ州における参加型研究:現状と課題」
ティライ・テクルウォルド(アムハラ州農業研究局)
2-3. 「エチオピアにおける農業研究の現状と参加型アプローチの可能性」
ダーウィット・アレム(エチオピア農業研究機構)
2-4. 「アフガニスタンにおける研究と普及の連携による農家への貢献」
鈴木正昭(JICAアフガニスタン国農業灌漑牧畜省組織体制強化プロジェクト・国際農林業協働協会)
15:30 コーヒーブレイク
16:00 第三部 総合討論「機能する参加型アプローチとは」
司会:重田眞義(京都大学)
コメント 荒木 茂(京都大学)
17:00 閉会
共催:
・ 独立行政法人国際協力機構(JICA)
・ JSPS科研費補助金 基盤研究(A)「アフリカ在来知の生成と共有の場における実践的地域研究:新たなコミュニティ像の探求」
・ JSPS科研費補助金 基盤研究(S)「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現に関する総合的地域研究」
[第21回公開ワークショップ/西アフリカ・クラスター第10回研究会/政治・国際関係ユニット第11回研究会]「Informalization and Its Discontents & Violent Islamic Radicalization」(第29回Kyoto University African Studies Seminar (KUASS)との共催、2014年11月21日開催)
日 時:2014年11月21日(金)14:00〜17:00
場 所:稲盛財団記念館中会議室
プログラム
Prof Abdul Raufu Mustapha (Oxford University)
Violent Islamic Radicalization:Northern Nigeria in the light of the experience of southern Niger Republic
Kate Meagher (London School of Economics)
Informalization and Its Discontents: The Informal Economy and Islamic Radicalization in Northern Nigeria
Abstract
Mustapha, A. Raufu
Violent Islamic Radicalization: Northern Nigeria in the light of the experience of southern Niger Republic
At first glance, northern Nigeria and southern Niger Republic share a number of important religious, economic, and social characteristics.
- Both belong to the sahelian cultural belt just south of the Sahara, running from Senegal to Somalia; a zone in which Islam has exercised significant influence for over a thousand years.
- The two regions are also united by the prevalence the Hausa language.
- Both are regrettably regions of high levels of poverty and depressed socio-economic indicators.
- Finally, they both share a complex admixture of sectarian communities of Sufi Brotherhoods and reformist strands of Islam.
Since the early 19th century, religious and political ideas, religious groups, economic actors, and political forces have moved back and forth across the boundary between both regions. In the process, events in one region have tended to have ramifications for developments in the other. For instance, the Sokoto jihad of 1804 spread Qadiriyya Brotherhood influence to the territories that are now in Niger Republic and many ‘of the wealthiest merchants of Niger belong to this order, whose members are referred to locally as ‘yan sadalu’. Similarly, the Tijaniyya-Ibrahimiyya Brotherhood was spread from Kano to Niger in the 1950s and its members are known locally as the ‘yan kabalu’. Significantly, the Qadiriyya-Tijaniyya conflicts which racked Nigeria in the 1950s and 1960s also took place in Niger. In the same vein, the reformist Salafist Nigerian sect, Izala, also made an appearance in Niger Republic in the 1980s, having been formed in Nigeria. As in Nigeria, the appearance of this reformist Salafist sect generated high levels of religious discord with the established Sufis in Niger. And as happened in Nigeria, Izala also broke into two main factions.
Though the flow and ebb of ideas and people go in both directions, there is the recognition of Nigeria’s formidable cultural, religious, and economic influence on Niger. This is captured in the Nigerien saying: ‘When Nigeria has a cold, Niger coughs’.
Since 2009, northern Nigeria has been battling a stubborn Islamist insurgency spear-headed by the Boko Haram. Analysts have been speculating on the possible consequence of this insurgency for Niger Republic, given the shared characteristics between both regions. Why has there not been the development of a similar insurgency in Niger? This lecture reflects on this question. The lecture compares the drivers of possible radicalization in both regions, looking specifically at: (a) the variable cultural geographies of within and between the two region; (b) impact of historical forces; (c) the importance of economic processes; (d) the political and administrative dynamics in both regions; and (e) religious factors, especially the place of Christianity in both regions and the prevalence of some religious ideas such as secularism. Through such a comparison, it should become clearer why, despite their seeming similarities, violent Islamist radicalization remains dormant in southern Niger but active in northern Nigeria.
Meagher, K.M.B. Kelly (London School of Economics)
Informalization and Its Discontents: The Informal Economy and Islamic Radicalization in Northern Nigeria
This seminar explores the dark side of inclusive markets in the context of northern Nigeria. It examines how strategies of economic inclusion generate new dynamics of exclusion through processes of selective inclusion and marginalization. Despite the celebrated resurgence of the Nigerian economy, the majority of the population has remained trapped in the realities of jobless growth, rising poverty and expanding economic informality. The interface of historical disadvantage, economic reforms, and the dynamics of the global economy have exacerbated problems of regional inequality within Nigeria, concentrating the benefits of inclusive markets in the south and the negative side-effects in the northern region of the country, fostering escalating poverty, disaffection and Islamic extremism.
Drawing on fieldwork conducted in the northern Nigerian cities of Kano and Kaduna in 2014, I will explore the nature and limitations of inclusive economies within the context of northern Nigeria’s vibrant informal economy. I will focus on how inclusive economies have exacerbated economic stress within northern Nigeria, and generated new and increasingly problematic processes of exclusion. Based on interviews with operators and associational leaders in a selection of eight common informal production and service activities, I show how mounting economic pressures are restructuring patterns of ownership, social identity, educational attainment and religious affiliation within the informal economy. Indigenous institutions and networks of religious tolerance and economic interdependence are being eroded by new patterns of competition over access to informal jobs based on education and identity. Popular disaffection is heightened by human rights abuses by security forces and graduate employment programmes, which further marginalize poor and less-educated informal actors, exacerbating economic stress and resentment against the state, and creating a tinderbox for violence and Islamic extremism.
[第20回公開ワークショップ/南部アフリカ・クラスター第7回研究会]「マダガスカル南部におけるワオキツネザルの長期継続研究」市野進一郎「マダガスカル南部におけるワオキツネザルの長期継続研究」(第206回アフリカ地域研究会との共催、2014年11月20日開催)
日時:2014年11月20日(木)
場所:稲盛記念館3階中会議室
市野進一郎(京都大学)
「マダガスカル南部におけるワオキツネザルの長期継続研究」
要旨
マダガスカルは、固有種に富む独自の生態系で知られる巨大な島(日本の約1.6倍の面積)であるが、すでに森林の90%以上が消失したと推定されている。南部のベレンティ保護区では昼行性原猿であるワオキツネザルの継続調査が1989年からおこなわれてきた。本発表では、寿命、生活史特性、個体群動態など長期研究による成果を紹介するとともに、長期継続研究がマダガスカルの森林生態系の保全にどのように貢献できるかを考える。
[第19回公開ワークショップ/社会・文化ユニット第13回研究会]Idah Makukule「Ukuringa’-The role of language in negotiating male youth township identity on a south African street corner」(第25回Kyoto University African Studies Seminar (KUASS)との共催、2014年05月26日開催)
日 時:2014年5月26日(月) 15:00~17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階第一小会議室
プログラム
演題:Ukuringa’-The role of language in negotiating male youth township identity on a south African street corner
演者:Idah Makukule(南アフリカ・パブリックアフェアーズ研究所、研究員)
要旨
[第18回公開ワークショップ/西アフリカ・クラスター第7回研究会]Murray Last「The Dilemma in Being an Islamic Radical in Northern Nigeria: Whether Non-violent or Violent」(第24回Kyoto University African Studies Seminar (KUASS)との共催、2014年05月20日開催)
日 時:2014年5月20日(火) 15:00~17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階318号室
プログラム
演題:The Dilemma in Being an Islamic Radical in Northern Nigeria: Whether Non-violent or Violent
演者:Prof. Murray Last (ロンドン大学名誉教授)
要 旨
[第4回アフリカの紛争と共生セミナー]「2013年度海外派遣者報告会」(2014年05月10日開催)
日時:2014年5月10日(土) 15:30-17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階セミナー室
プログラム
15:30-16:00
片山夏紀(東京大学大学院)
「ジェノサイド後ルワンダにおける被害者と加害者の「和解の実践」に関する研究」
16:00-16:30
山本めゆ(京都大学大学院)
「ポスト・アパルトヘイト期南アフリカにおける人種カテゴリー再編成―華人の「黒人性」をめぐる裁判を手がかりに」
16:30-17:00
池永伊奈生(神戸大学大学院)
「セネガル路上商人の二つの社会的結合―信者講(ダヒラ)と同業者組合」
要旨
ジェノサイド後ルワンダにおける被害者と加害者の「和解の実践」に関する研究
片山夏紀(東京大学大学院)
本研究の目的は、1994年に勃発し、犠牲者50~100万人と推定されるルワンダ・ジェノサイドの被害者と加害者が、ジェノサイド後、同じ村でいかに共生してきたのかを、彼/彼女らの語りの解釈から、解き明かすことである。
本研究は、被害者と加害者の共生に大きな影響を与えたものとして、2002~2012 年にルワンダのローカルレベルで実施された、ジェノサイド罪を裁く法廷ガチャチャ(Gacaca)に着目する。現地調査では、ルワンダ西部州ンゴロレロ(Ngororero)県、ンゴロレロ市N村を調査地とし、ジェノサイドで家族を亡くした被害者と、被害者の家族を殺害してガチャチャで裁かれ、服役と公益労働を終えて故郷に戻ってきた加害者双方に聞き取りを実施した。調査で明らかになったのは、日常生活において双方が積極的に交流する機会をもうけていること、すなわち「和解」を実践している状況であった。和解の実践を通じて、被害者と加害者がいかに関係を修復してきたのか、また、ガチャチャが和解の実践にどのような影響を及ぼしているのか。彼/彼女らの語りから、個人の人格だけでなく、ルワンダという社会の諸相を反映した、共生のための「潜在力」を検討する。
ポスト・アパルトヘイト期南アフリカにおける人種カテゴリー再編成
―華人の「黒人性」をめぐる裁判を手がかりに―
山本めゆ(京都大学大学院)
南アフリカでは民主化後、歴史的に不利な立場に置かれた人びとを優遇し格差是正を目指す政策が導入されたが、華人はその恩恵を受けることができなかった。これを不服とする華人コミュニティは運動を展開し、2008年に最高裁においてアパルトヘイト期の華人が「歴史的に不利益を被ったblack people」であったと公式に認定された。この判断に対しアフリカ人社会は強い反発を示した。華人はアパルトヘイト後期には「名誉白人」であったという「集合的記憶」が共有されていたこともその一因である。
1970年代後半以降、武装闘争や大規模な抗議活動が激化するなか、華人はそれらとは距離を置き白人社会との交渉を重視する傾向にあった。今回実施したインタビュー調査から明らかになったのは、華人たちはそれを「文明の高さ」として提示しているということである。すなわち、武力に訴えるよりも対話と相互理解こそが「文明的」であるという説明である。しかしこのような主張は、開放闘争の主要な担い手であったアフリカ系住民を「野蛮」の側に位置づけ、人種隔離政策の比類なき野蛮さへ批判性を喪失するという転倒を招きかねない。
裁判をめぐる一連の騒動は、南アフリカにおける白人性/黒人性には多様な解釈が存在することをあらためて示唆するものとなった。またかつて華人コミュニティが採用した「文明的」な抗議手法がアフリカ系住民の眼には白人社会への同調と映り、今日に至る反感の源泉となっているのだとすれば、人種政策への抗議をめぐるアプローチの違いは実証的にも理論的にもさらなる精査が求められるだろう。
セネガル路上商人の二つの社会的結合―信者講(ダヒラ)と同業者組合
池永伊奈生(神戸大学大学院)
2007年、セネガルの首都ダカール市で、路上商人らは当局による公道からの退去命令に反発し、大規模な暴動を起こした。それに対し政府は即座に退去命令を撤回し、暴動は終息した。なぜ政府は、政治的にあまり重要と思われない路上商人の要求に対し全面的に譲歩し、そしてなぜ路上商人もまた即時に暴動を停止したのか。
セネガルの特質の1つとして挙げられるのは国民の大半がイスラームの教団に所属していることである。路上商人セクターは、特に若年層の雇用を吸収しつつソーシャルセーフティーネットとしても機能しているが、彼らの多くはムリッド教団に属しており、社会的相互扶助の機能も持つ信者講(ダヒラ)によって集団化されている。
現地調査によって得た路上商人組合代表らの証言から見えてくる暴動の背景は、路上商人の当局に対する積年の不満、ワッド大統領(当時)の判断ミスと強権的な行動、そして食料価格高騰やエネルギー供給不足といった経済社会的困難の増大であった。それらの不安定要因がぶつかり合い、暴動が生じ、そして政府が認識を改め完全に譲歩、そして担当機関を創設するに至り、路上商人等の不満は解消し、再び暴動は繰り返されなかったと考えられる。
しかしながら、路上商人もまた即時に暴動を停止できたのはどうしてなのかという疑問が残る。今次調査では明らかにできなかったが、路上商人たちは何らかの共通基盤によってもともと組織化されていたと考えられ、その1つがムーリッド教団である蓋然性は高いと思われる。
[第17回公開ワークショップ/南部アフリカ・クラスター第6回研究会]リチャード・ズール「たばこと健康:ザンビアにおける喫煙行動のコントロールに関する研究」(第20回 Kyoto University African Studies Seminarとの共催、2014年1月10日開催)
日 時:2014年1月10日(金) 15:00~17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階318号室
プログラム
「たばこと健康:ザンビアにおける喫煙行動のコントロールに関する研究」
リチャード・ズール(ザンビア大学、ASAFAS客員准教授)
※講演は英語で行われます。日本語通訳はございません。日本語資料は発表要旨のみとなります。
要 旨
たばこの喫煙は、世界各地で健康問題を引き起こしているが、予防できるものである。 2002 年、2007 年、2011 年に実施された青少年の喫煙に関する国際調査によると、7~9 年生 で喫煙経験のない生徒のうち 22.6%が翌年に喫煙しており、今までに紙巻きたばこを吸っ たことのある生徒は 19.1%であった。22%の生徒は、両親あるいは父親か、母親のいずれか が喫煙していると回答をした。喫煙する生徒のなかには、朝にまず、たばこを吸いたくなる という、ニコチン中毒の症状を示す者も含まれている。たばこ会社の無償提供によって紙巻 きたばこをもらった生徒もいる。ザンビアは 2008 年 5 月 28 日に、WHO(世界保健機関) のたばこ規制枠組み条約(FCTS)に批准し、たばこによる健康被害の防止に努めている。FCTS に沿った包括的なたばこの喫煙を制限する法律が必要である。本発表のなかでは、若年層に よるたばこの喫煙行動の規制の必要性を示していきたい。
Tobacco is a major public health concern worldwide and a major leading cause of preventable deaths. Methods used are review of survey results from the 2002, 2007 and 2011 Global Youth Tobacco Survey (GYTS) and a desk review. The GYTS included school grades 7, 8 and 9. The never smokers likely to initiate smoking in the next year were 22.6%. About 19.1% of the students had ever smoked cigarettes. About 22% of students reported that one or more of their parents smoke. Among some of the students who were current smokers some reported wanting a cigarette first thing in the morning, an indicator of nicotine addiction. Some students reported being offered free cigarettes by a tobacco company representative. Zambia has made tobacco use prevention a primary health issue as evidenced by the ratification of the World Health Organization (WHO) Framework Convention on Tobacco Control (FCTC) on 28th May 2008. There is need to have a comprehensive tobacco control law which is FCTC compliant. Findings presented in this paper show that there is need for interventions towards tobacco control amongst young people who represent the ages of tobacco use initiation.
[第16回公開ワークショップ]「現代アフリカ地域研究の多様性とその展望」(第200回アフリカ地域研究会との共催、2013年12月19日開催)
日時:2013年12月19日 (木) 15:00~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
プログラム
演題1:「言葉から心へ」
講 師:梶 茂樹
(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授)
演題2:「アフリカの自然から見つけたおもしろさと驚き」
講 師:水野一晴
(京都大学アフリカ地域研究資料センター・准教授)
演題3:「アフリカにおける紛争解決と 共生の実現にむけて」
講 師:太田 至
(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授)
演題4:「北部タンザニア、都市近郊農村の20年」
講 師:池野 旬
(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授)
ディスカッサント:市川光雄
(京都大学・名誉教授、日本モンキーセンター・所長)
要 旨
現代アフリカを理解するためのアプローチは多様であり、地域研究はその多様性 を含んで発展してきた。1986年から開始されたアフリカ地域研究会200回を記念し、4人の 研究者がそれぞれの立場から自身のアフリカ地域研究をふり返り、ディスカッサントを交 え、今後のアフリカ地域研究を展望する。