日時:2013年5月11日(土) 15:00-17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室
プログラム
15:00-15:40
福井美穂(お茶の水女子大学グローバル協力センター特任講師)
人間の安全保障の視座に基づくポストコンフリクト期のジェンダーに基づく暴力(Gender-Based Violence: GBV) 問題の研究と実際的対応の模索
15:40-16:20
久田信一郎(京都大学アフリカ地域研究資料センター研究員)
P3DMを活用した土地紛争の重層的な関係の解明
―エチオピア南西部高地農耕民アリの事例―
16:20-17:00
井手上和代(神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程)
アフリカにおける資本市場と企業の資金調達
要旨
人間の安全保障の視座に基づくポストコンフリクト期のジェンダーに基づく暴力(Gender-Based Violence: GBV)問題の研究と実際的対応の模索
福井美穂(お茶の水女子大学グローバル協力センター特任講師)
本研究は、ポストコンフリクト期における国際的支援者による被支援者に対するGBV対策について、人間の安全保障という被害者中心の視座を導入することで、さらなる予防の促進および法的および行政処分の徹底、そして被害者の支援・保護の強化について、より具体的な政策提言および組織的対策に関する提言につながる研究を行うことを目的としている。特に事件直後の、仮想加害者の所属する多様な組織の行うべき予防対策および被害者支援を検討する。フィールド調査は、被害者支援の現状と、被害者中心の視座を導入した被害者支援内容の理解のためポストコンフリクト期にGBVを経験したシエラレオネおよびリベリアで調査を行い、ポストコンフリクトから開発への移行期にあるシエラレオネでは政府主導のGBV対策の成果と被害者支援の現状を、未だ国連PKOが展開するリベリアでは、国連を主体とする最新のGBV対策を調査した。ポストコンフリクト期からGBV被害者支援されることにより開発期に続くアフリカの人間の安全保障に関わる「潜在力」を模索する。その調査内容から、加害者の所属組織や法的地位にかかわらず被害者が支援を受けられるよう、加害者所属組織を中心とした国際社会による被害者支援の在り方を考察する。
P3DMを活用した土地紛争の重層的な関係の解明
―エチオピア南西部高地農耕民アリの事例―
久田信一郎(京都大学アフリカ地域研究資料センター研究員)
エチオピアは、1991年5月に社会主義政権が倒されて、1996年からエスニック・グループ単位の連邦制となった。本事例研究は、アリが住む南部諸民族州、南オモゾーン、南アリ郡、ドルドラ村内のガラメルティ集落にて行なった。この集落は、世帯数が165(人口890人)で、標高が2400-3200mの高地にあり、面積が約2キロ四方で、その東側がドルドラ森林に接している。主な生業は、農耕で大麦、小麦、豆類を栽培し、牛、羊などの家畜を肥育している。これらの家畜は、耕作期間中にドルドラ森林内にて牧童に連れられて放牧されている。アリでは、1990年代初めに急激な人口の増加と家畜の市場価格高騰による肥育数の増加が起こった。調査地では、これと時を同じくして高地の森林部分の開墾が起こった。耕作地を隣接するもの同士の境界線の争いや、家畜が他人の土地で草や作物を荒らす被害の調停は、村の下部組織である集落を単位として選ばれたリーダーか、その村内の長老が行なってきた。それでも解決できないときには、行政組織であるカバレ(村)の評議会に調停や裁決を仰いできた。本調査では、ガラメルティ集落の上層部にて開墾が行なわれたにもかかわらず森林存続に影響を与えた要因を明らかにする。
私は2008年5月よりこの地域のアリが住む高地にて住民参加型手法によって作成した立体地形モデルを使って土地利用の視覚化をおこない森林部分の開墾地と開墾者どうしの親族・姻戚関係について調査してきた。耕作地の開墾と森林利用の変化を把握するために、立体地形モデルを使ったワークショップとフィールドワークで得た情報をもとに、親族関係作成アプリケーション(Alliance3.3)を使って親族データベースを作成した。土地利用と親族関係というふたつの属性の違うデータを重ね合わせることにより、誰が誰とどのような関係を持ち、どの部分の森林の開墾を行なったかを把握した。それをもとに森林開墾を止めるために果した長老の戦略について考察した。
その結果、ガラメルティ集落の住民は、血縁の親族単位および姻戚関係を持ち良好な親族・姻戚関係を維持しつつ森林開墾を行ったことを見いだした。1996年以降の森と耕作地の境界は、行政が環境保全や森林資源保全のために指導して定めたのではなく、この集落の長老等が、行政にたいして森林と隣接する地区の住民による行き過ぎた開墾の中止を要請して定めたことが明らかになった。
アフリカにおける資本市場と企業の資金調達に関する一考察
―モーリシャスの製糖業による資本蓄積と工業化における資源移転の分析より―
井手上和代(神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程)
1968年の独立までにオランダ、フランス、イギリス3カ国の植民地を経験したモーリシャスは、砂糖輸出に依存した経済構造を持ち、製糖産業は国の主幹産業であった。一方、国内では高い人口増加率や深刻な財政状況を抱えており、産業の多角化を図り経済発展することが政府にとって重要な政策課題であった。その後1970年の輸出加工区(Export Processing Zone: EPZ)の設置により、一次産品輸出依存の経済から脱却し、アフリカにおいて輸出指向工業化により高い経済成長を遂げた成功例として“Mauritian Miracle”と称された。
モーリシャスにおける植民地支配の経験や外国資本の存在は、国内の人口構成や経済構造に決定的な影響を与えていると考えられるが、事前の調査より、モーリシャスの経済成長を支えた要因の一つとして、フランス植民地時代より続く砂糖の輸出による国内の資本蓄積がEPZにおける繊維・衣料産業への投資を可能にしたと想定される。本研究では、製糖業者の発展過程および、EPZ企業や金融部門との関連性を明らかにすることで、上記の仮説を検証し、さらにその結果を踏まえ、アフリカにおける資本市場の整備を考える上で企業の所有構造の寡占が一般的であるアフリカ社会において、単に企業発展のための資金供給ではなく、国の包括的な成長の為の、金融システムの在り方を考察することを目的とする。