日 時:2013年1月26日(土)15:00~18:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
プログラム
15:00~15:15 太田至(京都大学)「趣旨説明」
15:15~16:15 松本仁一(朝日新聞特別企画顧問)「アフリカは紛争解決能力があるのか」
16:15~16:35 休 憩
16:35~17:35 ゲブレ・インティソ(アジス・アベバ大学教員)「エチオピアにおける法の多元性と慣習的な裁判(Legal Pluralism and Customary Courts in Ethiopia)」
17:35~18:00 総合討論
要 旨
趣旨説明 太田至(京都大学)
現代のアフリカ諸社会は、紛争によって解体・疲弊した社会秩序をいかにして修復・再生させるのか、争いのあとで人びとはどのように和解できるのかという課題に直面しています。この講演会では、こうした現実的な課題に対処するために、アフリカ人がみずから創造・蓄積し、運用してきた知識や制度がどのように活用できるのかを考えます。
アフリカは紛争解決能力があるのか
松本仁一(朝日新聞特別企画顧問)
□結論からいうと「ある」
□例:ソマリランド(280万人)
・80年代半ば、内戦が始まる。1991年バーレ政権崩壊。
・ソマリランド内部の武力抗争は続く。約20の氏族。5万丁のカラシニコフ。
・93年、ボロマ地区の氏族長老が和平会議を呼びかけ。
・長老82人が銃を手放すことを呼びかける。民兵は警察と軍に。
・国連が注目。UNDPが銃回収方法を担当。
・02年までに民間の銃はほぼ回収。
・市場、女性ばかり。治安に信頼。
・ただ、ソマリランドは「単一民族国家」――共通の利害感覚を持てる。
□問題は多部族国家:コンゴ民主共和国、ウガンダ北部、チャド、ジンバブエ
・経済が崩壊――食えない――部族に依存――部族優位社会に。
・部族パトロンはクライアントを養うためにワイロを取る――国家経済崩壊へ
□多部族社会での対立解消は可能か――イエス。
・部族を超える価値観を持つこと。「独立闘争」の時代は部族対立は目立たなかった
・部族に頼らなくても食える社会。働けば食べられる社会がそれに代わる。
□政府に任せておいたらいつまでも「利益誘導型」でだめ
・「働けば食える」「もっと働けばもっといいことがある」のインセンティブを。
・ジンバブエのORAP。インセンティブを持つ。
・南アの対モザンビーク、対タンザニア投資。雇用と労働の質の向上。
・経済合理主義を民間主導で持ちこむ実験中。OSR。
□一筋縄ではいかない。しかしやってみる価値はある。
エチオピアにおける法の多元性と慣習的な裁判(Legal Pluralism and Customary Courts in Ethiopia)
インティソ・D・ゲブレ(アジス・アベバ大学)
エチオピアには法の多元性がある―通常の公式な裁判と非公式で慣習的な裁判の二つが併存しているのである。家族内で発生する問題は、公式な裁判以外の場で取り扱われることが多いし、また、イスラーム教徒同士の争いはイスラーム法に則した裁判所で審議されることが多い。これとは異なり、伝統的なメカニズムによって人びとのあいだの争いが解決されたとしても、それは国家の法によって承認されることがない。しかしながら最近の調査によれば、農村で生活する人びとの大部分は、紛争解決の手段として、公式な裁判よりも慣習的な裁判を好む傾向があり、それは、都市部に住む人びとの多くにもあてはまることが明らかになっている。
これまでは、慣習的な紛争解決のメカニズムは「遅れたものである」と考えられてきたし、そうした慣習を廃止して、明文化された近代的な法律に移行しなければならないとされてきた。しかしながら現在、こうした伝統的なメカニズムが妥当なものであることが認識されるようになった。そして近年には、国家の法律では解決しにくい紛争は慣習的な裁判によって処理することを、政府が推奨するケースが多くなっている。
しかし、慣習的な紛争解決のメカニズムにはいくつかの欠点がある。すなわち、人権侵害がおこったり、女性や若年層が審理のプロセスから排除されることが批判されている。そのために伝統的な裁判は、エチオピアが批准しているさまざまな国際的な手段とは調和しない、という議論がある。また、一部の地域では、殺人事件のような重大な犯罪が慣習的なシステムによって裁かれているし、村レベルの裁判によって死刑が求刑される事例もある。そのために非公式な裁判システムは、公式な裁判と衝突するようになる。
この講演では、伝統的な裁判が妥当である理由は何なのか、どうして伝統的な裁判が好まれているのかを説明する。そして、こうした傾向は好ましく見えるが、それはどのような意義をもつのか、また、慣習的な裁判を利用するためには、どのような課題があるのかを論ずる。
Legal Pluralism and Customary Courts in Ethiopia
Yntiso D. Gebre (Addis Ababa University)
In Ethiopia, plural legal systems exist: the formal (regular) court and the informal (customary) court. With the exception of family matters that may be handled outside of the regular court and disputes between Muslims that may be taken to the Sharia court, conflicts resolved through other traditional mechanisms lack legal recognition. However, research reveals that most people in rural communities and many people in urban areas prefer the customary courts over the formal law for all forms of disputes.
In the past, the customary dispute resolutions mechanisms were considered backward practices that need to be replaced by the modern codified law. Today, there exists a growing recognition of the relevance of traditional conflict resolutions. In recent years, it became evident that sometimes government authorities encourage customary courts to address conflicts that could not be resolved through the state machinery.
Customary dispute resolution institutions are not without blemishes, however. Some are criticized for violating human rights and for excluding women and the youth from participation in hearings. This places traditional courts at odds with the international instruments that Ethiopia has signed. There are also instances, in some localities, where customary courts handle hard crimes such as homicide and even pass death sentences at the village court level. This is another source of confrontation between the formal and informal systems.
In this presentation, I will explain the reasons why the traditional courts remain relevant and in some cases even dominant; the manifestations of the recent seemingly favorable trend and its implications; and the challenges associated with the use of customary courts.