[第17回全体会議]特別フォーラム「アフリカ潜在力から考える紛争解決に向けた国際関係の諸相」(2014年7月19日開催)

日時:2014年7月19日(土) 13:30〜17:30
場所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室

プログラム

13:30~14:00 事務局からの連絡
14:00~17:30 特別フォーラム「アフリカ潜在力から考える紛争解決に向けた国際関係の諸相」

プログラム

14:00~14:10
遠藤貢(東京大学大学院総合文化研究科)
趣旨説明

14:10~14:50
クロス京子(立命館大学立命館グローバル・イノベーション研究機構)
「移行期正義と女性の正義―リベリア平和構築プロセスにおけるエージェントとしての女性」

14:50~15:30
杉木明子(神戸学院大学法学部)
「「国内紛争」の越境・拡散と「紛争解決」-北部ウガンダ紛争の事例から」

15:30~16:10
栗本英世(大阪大学大学院人間科学研究科)
「南スーダン新内戦和平調停におけるIGADの役割」

16:10~16:25
  ブレイク

16:25~16:45
遠藤貢(東京大学大学院総合文化研究科)、武内進一(アジア経済研究所)
コメント

16:45~17:30
  総合討論

報告

移行期正義と女性の正義―リベリア平和構築プロセスにおけるエージェントとしての女性
クロス京子(立命館大学立命館グローバル・イノベーション研究機構)

クロス氏は、平和構築プロセスにおいて、社会変革のエージェントとしての女性が果たす役割について論じた。最初に、移行期正義が制度化されてきた背景やそのスコープの拡大について説明し、平和構築において、ジェンダー、移行期正義、社会正義の3領域がどのような連環にあるかという問題設定を明確にした。次に分析の枠組みとしてジェンダー視点を導入する意義を述べた。紛争下の性的暴力撲滅推進は国際的な流れであり、国連安保理でも女性の平和、安全保障が議論され、繰り返し決議がなされている。決議では、①「被害者」としての女性という観点のみならず、②社会変革の「エージェント」としての女性という観点が導入されている。以上のことから、クロス氏は、ローカル正義が持つ構造的不平等問題にはジェンダー観点を導入する意義があり、女性が社会変革のエージェントとして参加するローカル正義は女性の正義実現に効果を持つという仮説を提示した。最後に、この仮説を検証するために調査をおこなっているリベリアの女性組織の事例が紹介された。リベリアにおける既存の紛争解決法としては、チーフ・長老による検討会議Palava Hutがある。これを模して作られたPeace Hutという女性組織によって、紛争解決、小規模ビジネス、DV被害者保護・加害者の引き渡しなど女性の能力強化のための様々な活動がおこなわれている。質疑応答では、このような活動を可能にした要因が何であるかが問われた。ジェンダー指数で見る限りリベリアの女性の地位は低いままであるが、寡婦として生活する中で女性がエンパワーするためのアクセスは増えたという点が指摘された。(市野進一郎)

「国内紛争」の越境・拡散と「紛争解決」-北部ウガンダ紛争の事例から
杉木明子(神戸学院大学法学部)

杉木氏は、北部ウガンダで発生した紛争が「ミクロ・リージョン化」、つまり近隣諸国へ越境、拡散していったプロセスを概観したあとで、紛争解決に向けた取り組みとその課題について論じた。ウガンダ北部では、1987年にジョセフ・コニー率いる神の抵抗軍(LRA)がムセヴェニ政権に対する軍事抵抗を開始した。LRAは1994年にはスーダン(現・南スーダン)に拠点を移し、2005年にはコンゴ民主共和国へ、さらに2008年には中央アフリカへと移動を続けた。LRAの現在の軍事力はわずか210~240人程度だとされる。軍事的には圧倒的な優位にあるのに、これらの4か国がLRAを制圧できていない背景として、①LRAは関係国にとって安全保障上の最優先課題ではないため、解決へ向けた政治的意思が欠如していること、②各国で反政府勢力への支援や資源の収奪などをおこなってきたウガンダ政府に対して、近隣諸国が不信感を抱いていること、③現在、LRAの拠点や攻撃対象はウガンダ北部にはないため、紛争を解決すべき主体がどの国なのかが不分明であること、の3点を挙げた。ウガンダ北部紛争のような越境した紛争を解決するための平和構築は、国レベルではなく地域(リージョナル)レベルでおこなわれる必要があり、その実現に向けて対話・コンセンサス型のアプローチによる地域協力、つまり関係諸国が協議を重ね、紛争解決や安全保障の価値を共有する環境を醸成していくことが求められている。最後に杉木氏は、紛争解決の潜在力として、草の根レベルで形成されたCBOである地域市民社会タスクフォース(RCSTF)による各国政府への働きかけがもつ可能性に言及した。ただし、「KONY2012」運動のような当該地域の住民の意思を無視したアドボカシー・ネットワークは、地域住民からの反発を招きかねない点で問題含みのものであることも指摘した。(佐川徹)

南スーダン新内戦和平調停におけるIGADの役割
栗本英世(大阪大学大学院人間科学研究科)

栗本氏は2013年12月から続く南スーダンの紛争について、背景と経緯を説明した後、IGADなどの地域(リージョナル)機関がどのように対応したのか、主にニュースメディアの報道を取り上げながら解説を行った。紛争が生じた背景については2005年から続く復興の遅れ、汚職、キール大統領の強権的な政治などに対する不満の蓄積が挙げられた。また、大統領と副大統領の軋轢が民族紛争の様相を呈した点について、大統領が副大統領と関係者を武力によって排除した際に「エスニック・カード」を切ったためであるという私見が述べられた。次にAUやIGADの介入による和平調停に至るプロセスと停戦協定が破棄され各地で戦闘が継続している現状と、それぞれの機関が制裁を検討している様子が示された。質疑応答では、民間人レベルの民族間関係の現状がどうなっているのか、マルチ・エスニックなNGOはどのように活動しているのか、という質問が出された。また、キール大統領がなぜエスニック・カードを切ったのかという質問に対して、栗本氏から大統領が政治家として未熟であったという見解が示された。(伊藤義将)

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