日 時: 2011年11月12日(土)13:00-17:30
場 所: 京都大学稲盛財団記念館3階小会議室1
プログラム
■プロジェクトの説明 太田至(京都大)
■経済・開発ユニットの趣旨説明 世話人 高橋基樹 (神戸大)
■メンバーによる研究紹介(おひとり20分ほど)
■総合討論
■事務連絡と今後の予定
報告
本科研の研究代表者である太田至氏(京都大学)から、プロジェクトの概要と取り扱う課題群のひろがりについて説明がされたのち、各メンバーが研究内容の紹介と本ユニットで取り扱っていく研究課題について報告した。
世話人である高橋基樹氏(神戸大学)より、経済・開発ユニットが扱う課題として、紛争の要因となりうる希少化する資源を分配するプロセスで生じる失敗または、希少資源を維持するプロセスで生じる失敗をマクロとミクロな視点で、ひろく取り扱っていくことが提案された。
西浦昭雄氏(創価大学)の研究テーマ「アフリカの労働争議と調停方法」が、高橋氏によって代理で紹介された。この課題については、①裁判所のようなフォーマルな調停機能を本研究会ではどのように扱うのか、②フォーマルな調停機能を利用するのは大企業であり、この研究では少数のエリート層を扱うことになるのかというコメントが提示された。①に対して、南アフリカの真実和解委員会の事例が挙げられ、法的根拠がある調停機能だからといって研究対象から外すことはないという点が確認された。②に対しては労働争議にはエリートとは言いきれない人々が多数かかわっている点で、少数のエリートに限定していることにはならないという意見が出された。また、労働者が組織化されていることの社会的な意味について掘り下げることも重要であるという意見が出された。
次に高橋氏の研究テーマである「土地制度と民族関係の政治経済学的分析」について議論された。ここでは特に土地登記の役割が注目された。例えば、土地登記が行なわれたとしても、人々はその権利を売買することはなく、事実上利用していない、土地登記を行なっても、引き続き分割相続を行なうという事例が提示された。また、逆に「登記した」という事実が紛争解決のプロセスに持ち込まれた事例も紹介され、登記の意味が多様化している、ジェンダーの視点からは女性でも登記をしたら土地を所有することが認められるという、ポジティブに機能する可能性も確認された。
池野旬氏(京都大学)は開発や発展によって生じた環境の変化や国家の政策の影響が地方にまで及んだ結果生じた紛争の事例を紹介した。具体的には農村部に建築される学校の土地確保の問題や、生活用水をめぐる地方行政と住民の紛争などが挙げられた。学校用地の確保の問題はアフリカ各地で生じており、土地登記の問題に注目することがここでも重要であるという意見が出された。
小川さやか氏(国立民族博物館)は、①東アフリカ諸国の政治経済連携によって生じる古着取引をめぐる競合と、②政治活動がストリートの古着商人(マチンガ)にまで及び、野党の援助などによって設立されたマチンガ組合がストリートで生じた紛争を解決している事例を紹介した。①に対しては中古品が国境を超えて取引されている状況が政治経済連携によって、貧困削減という方向で機能する場合と、逆にこれまで中古品取引を担っていた人々を除外する方向に動き、貧困を招く可能性も高く、注目に値するテーマであることが確認された。②に対しては、インフォーマルな人々がフォーマルな組織を作っていることが興味深いという意見や、ローカルNGOを作ると儲かるという状況が生じており、お金の流れを把握する重要性も指摘された。
伊藤義将氏(京都大学)は、エチオピア南西部の森林域で2003年より始まった森林保護活動によって引き起こされた地域の混乱を紹介した。このテーマに対しては、状況が非常に複雑になっており、行政のどのレベルの主体が調整機能として働く可能性があるのか不明確であるという点、必ずしも行政単位や村単位で意思決定がされていない場合が多く、想定されている意思決定機構を改めて客観視する必要性がある点などが指摘された。
山田肖子氏(名古屋大学)からは、「社会装置としての教育の影響」という視点から紛争を経験した国の社会科教育、市民性教育がどのように教えられているのか、教科書の分析をすすめることが報告された。今後の調査は主に民族ごとに異なる教育の歴史を持つケニアで行い、教師に注目すると、その教え方などには多様性があり実情を捉えることが難しいことから、教科書を作っている人に限定して調査を行なうということが説明された。また、貧困を削減する方策としての技能形成やskill developmentの可能性を探るというテーマも紹介された。しかし、そもそもアフリカ諸国では就業機会が少ないため、職業訓練を行なっても貧困削減にはつながらないという指摘や、徒弟のようなインフォーマル教育は評価できるが、ある一つの民族がその職業を占有し、他民族が排除される事例が紹介されたり、近年ではコンピューターなどインフォーマルな教育だけでは取得できない技術も多く、フォーマルな教育も重要である点が指摘されたりした。
大山修一氏(京都大学)は、ザンビアで現在進行しつつある、外国人投資家や、企業及び、都市に居住するザンビア人による土地取得の状況について報告した。ザンビアの事例では土地の権利を持っており、土地を外部者に取得されることから守らなければならない存在であるチーフが率先して土地を売却している点などが報告された。また、ニジェール南部サヘル地帯の牧畜民と農耕民の間で生じている土地をめぐる競合についても報告を行い、紛争を解決する方策を思考中であることが報告された。
上田元氏(東北大学)は、これまで行なってきた研究のなかでどのような紛争が見られたのかを紹介した。屋外自動車修理工と都市当局との紛争、半乾燥新開村における女性の蔬菜生産をめぐるジェンダー間の紛争、水や森の管理をめぐる紛争、漁民の資源管理をめぐる紛争などが紹介された。資源を課題として扱うが、民族内の紛争、村内の紛争、世帯内の紛争といったミクロな紛争に注目していくことが確認された。
福西隆弘氏(アジア経済研究所)からは、グローバル化は今後、投資と貿易の分野で進んで行くという視点から、外国直接投資とローカル生産者及び、労働者の関係と中古貿易と産業発展の関係に注目していくことを表明した。外国直接投資の懸念事項として、アフリカ諸国では建設産業は外国企業が中心となり、サブコントラクターとして現地企業が利用されている点、小売・流通業ではスーパーマーケットが進入し小農がなかなか入り込めていない点、園芸産業や農業分野においては適地の少ないエチオピアなどが投資の対象となっている点が挙げられた。しかし、調査手法として、統計資料の調査と現地のインタビュー調査を行なうスキームを考える必要性も指摘された。中古品の貿易については、大規模な中古品の供給がある中で産業発展に取り組んだ例はアフリカしかなく、アフリカの経済成長を考えるうえで手がかりを見出せると報告した。しかし、同時に中古品の輸入には現地の生産者の経済活動を阻害する側面もあり、生産者が輸入中古品にどのように関わってくるのかを見る必要性も指摘された。
荒木美奈子氏(お茶の水女子大)は住民主導で建設されたミニ・ハイドロミルや給水施設等を、一定の「公共性」を持った資源と捉え、その利用や管理をめぐる不一致・内紛や合意形成の過程、在来の規範・制度との接合・関係性などを明らかにしていくと述べた。質疑では、荒木氏が想定している協調的地域社会とは何をもって協調的社会と言っているのか、ある程度意思を持って紛争のない社会を目指している地域社会なのかという点が議論された。
さいごに事務局から事務連絡をおこない、メンバー相互の連絡方法と次回の開催予定(1月28日)について話合った。(伊藤義将)