日 時:2012年5月12日(土) 15:00~17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館 小会議室II
プログラム
東アフリカ牧畜社会における地域紛争と自警団
佐川徹(京都大学)
報告
2000年代に入ってから、アフリカ大陸では国家規模で展開する大規模な内戦の数は減少しているが、資源の争奪などをめぐって発生するより小規模な「社会紛争」は発生し続けている。東アフリカ牧畜地域における紛争はその典型例として挙げられる。発表ではまず、エチオピアとケニアの国境付近に位置する牧畜社会で、政府や非政府組織による平和構築を目的とした介入が十分な成果を挙げておらず、むしろ中央政府主導の大規模な土地開発によって、多くの新たな紛争の種が蒔かれていることが指摘された。つぎに、タンザニアやケニアで、住民と公的部門の連携のもとに地域の治安向上に一定の成果を挙げてきた、自警団スングスングの活動について紹介がなされた。スングスングは1980年ごろにタンザニアのスクマやニャムウェジの人々が自生的に形成し、犯罪の取り締まりや処罰の決定に効果を発揮し、しばらくのちにタンザニア政府も公的にその活動を認可し、さらには国境を越えてケニアにまでその活動が広がった。しかし、ケニア南西部のクリアではスングスングが次第に犯罪集団化し、現在では政府の治安部門改革の一環として実施されているcommunity policingの活動にとってかわられていることが示された。
討論では、スングスングのメンバーが治安維持に従事したもともとのインセンティヴとそのメンバーが犯罪集団化していった理由について、治安維持に関わるアクターへの報酬と関連づけながら議論がなされた。また、non-state actorの治安維持への関与はOECD-DACなどによっても推進されているが、それについて論じる際には、ともに「治安維持活動」に従事しているとはいっても、対外的な防衛活動を担う組織と日常的な犯罪行為を取り締まる組織とは分けて論じる必要があるのではないか、との指摘もなされた。さらに、自警団のような組織は、政府がその活動を事後的に承認して法制度化されたか否かを評価の対象にするのではなく、その活動が必要になったときにそれに応じて組織が自生的に生成し、また必要がなくなったら消えていくというアドホックな側面を評価の対象にすることもできるのではないか、という点も論じられた。(佐川徹)