日 時:2013年12月6~8日
場 所:ジュバ、Juba Grand Hotel
概要
第3回アフリカの紛争と共生 国際フォーラムは、2013年12月6日から南スーダン共和国の首都ジュバで、京都大学アフリカ地域研究資料センターとジュバ大学平和開発研究センター(Centre for Peace and Development Studies)の共催で開催された。会場はジュバグランドホテルであった。
第3回国際フォーラムのタイトルは「平和構築と『アフリカの潜在力』:南スーダンと周辺地域における上からと下からのアプローチの調和」(”Peacebuilding and ‘African Potentials’: Harmonizing Approaches from Above and Below in South Sudan and Beyond”)であった。第1回と第2回の国際フォーラムは、それぞれ東アフリカと南部アフリカという、複数の国からなるアフリカ大陸のひとつの地域を対象とし、紛争解決と共生、さらには「アフリカの潜在力」をめぐる問題系の地域的特性を議論した。それに対して今回の国際フォーラムは、南スーダンというひとつの国に焦点をあてたものであった。
とくに南スーダンをフォーラムの対象に選らんだことには三つの理由がある。第一に、2005年まで22年間にわたる内戦を経験し、内戦が終結した2005年以降、そして住民投票をへて2011年7月に南部スーダンが南スーダン共和国として独立した以降も、さまざまな武力紛争が継続しており、アフリカの紛争を考えるうえでは格好の対象と考えられることがある。第二に、武力紛争が継続する一方で、内戦中から多数の和解と平和構築の試みが行われてきたことが挙げられる。南スーダン人自身のイニシアティヴに基づき、主としてキリスト教会系の市民組織が支援・仲介したこうした試みは「人びと同士の平和」(People-to-People Peace)や「草の根平和構築」(Grassroots Peacebuilding)と呼ばれている。本フォーラムでは、こうした試みを「下からの平和」(Peace from Below)と呼ぶ。第三に、内戦が終結した2005年以降、国連、国際社会、そして南部スーダン政府/南スーダン共和国政府によって、戦後復興と開発の枠組みにのなかで、平和の定着を目指した、本フォーラムで「上からの平和」と呼ぶ、さまざまなプロジェクトが開始されたことがある。つまり、南スーダンは、平和構築の巨大な実験場なのであり、その実験には上から下まで、外部と内部、さまざまな主体がかかわっている。その意味で、たんに紛争だけでなく、共存や和解のあり方、さらには「アフリカの潜在力」を考えるうえでも、南スーダンはきわめて重要な位置を占めているといえる。
私たちの基本的な認識は、現時点でも進行している武力紛争と国民が分断されたままの状況を考えると、この巨大な実験は成功しつつあるとは言い難いこと、そして、根本的な問題は、「下からの平和」と「上からの平和」のあいだにギャップが存在しており、二つのアプローチのシナジー、接合、あるいは調和を模索する必要があるということであった。
以上に基づき、本国際セミナーでは、南スーダンにおける紛争と平和構築にかかわってきた、考えられるすべての関係者を招へいし、それぞれの立場から発表してもらうことにした。具体的には、関係者とは研究者、「下からの平和」の実践者、南スーダン政府と議会の責任者、国連と国際NGOの専門家である。また、南スーダンの状況と直接関連しているスーダンとウガンダ北部を研究対象としている研究者も発表者に加わってもらった。
本国際フォーラムでは、基調報告に続いて4つの分科会で13件の発表が行われた。3日間の発表と討論で、「上からと下からのアプローチの調和」への道筋が明確になったわけではない。むしろ、あらためてあきらかになったのは、両者のあいだのギャップの大きさかもしれない。今回のフォーラムの目的のひとつは、紛争と平和構築の研究者と平和構築の実践者と政策決定者のあいだの対話の場を提供し、しかもたんなる情報交換ではなく、自己の営為を相対化して自省的・自己批判的に捉える視点を獲得することであった。3日間という期間は、こうした深い対話を実現するには短すぎたのかもしれない。また、主催者側の意図が発表者に十分には伝わっていなかったという問題もあった。しかし、今回のフォーラムの成果を踏まえて、思考と対話を継続していく必要があることはたしかである。
フォーラムのハイライトのひとつであったのは、長年コミュニティレベルでの草の根平和構築を実践してきた2名のキリスト教会関係者による、きわめて生き生きとした、笑いを引き起こすとともに共感を呼んだ発表であった。人びとをひきつけるこうした「身体化された雄弁術」は、南スーダン人びとが共有している伝統であることはあきらかであり、「アフリカの潜在力」の例証である。さらに言えば、困難な状況のなかで粘り強く継続されてきた平和構築の試み自体に、「アフリカの潜在力」を見いだすことができるだろう。
第3回国際フォーラムが終了したちょうど1週間後にジュバで政府軍SPLA同士の衝突が発生し、動乱はまたたくまに全国各地に飛び火し、内戦と呼んでさしつかえない状態に展開した。そのなかで、内戦は「民族紛争」の側面を色濃く帯びるようになった。幸い、フォーラムに参加した南スーダン人のなかで犠牲者はでていないが、彼/彼女たちの生活や運命もおおきく転換することになった。 2013年12月以降の動乱は、長年続けられてきた平和構築の試みが成功したとは言えないことを示唆している。南スーダンにおける「潜在力」とは、平和を志向するものではなく、武力紛争へと向かう傾向を意味しているのではないかとさえ思えてしまう。2014年1月23日に停戦合意が成立したが前途は多難である。新生国家南スーダンは、早くもおおきな危機を迎えている。紛争が発生した当初は、国際フォーラムの開催および成果のとりまとめがむなしく思えていたが、現在は将来のためにも成果の英語出版が必要であると考えている(2014年3月6日、栗本英世)。
プログラム
December 6 (Fri.)
- 14:00 – 14:20 OPENING REMARKS
- Dr. Sirisio Oromo (Director, Centre for Peace and Development Studies, University of Juba) & Prof. Itaru Ohta (Center for African Area Studies, Kyoto University)
- 14:20 – 14:40 WELCOME ADDRESSES (chaired by Dr. Sirisio Oromo)
- Prof. Aggrey L. Abate (Vice Chancellor, University of Juba)
- 14:40 – 14:45 INTRODUCTION OF THE KEYNOTE SPEAKER
- Prof. Eisei Kurimoto (Graduate School of Human Sciences, Osaka University)
- 14:45 – 15:30 KEYNOTE SPEECH
- Dr. Peter Adwok Nyaba (Former Minister of Higher Education, Republic of South Sudan /
Independent scholar)
“The War of Liberation Is Over; South Sudan Is Independent; Why Are the People Still Dying?” - 15:30 – 15:50 DISCUSSIONS (chaired by Prof. Eisei Kurimoto)
- 15:50 – 16:10 COFFEE/TEA BREAK
- 16:10 – 18:10 PANEL 1: INTERNAL AND EXTERNAL DYNAMICS OF ARMED CONFLICTS
- Chair: Mr. Philip Ohuyoro (Lecturer, College of Social & Economic Studies, University of Juba)
- 1) Prof. Eisei Kurimoto
- “Armed Conflicts in South Sudan since 2005: Old and New, an Attempt of Classification and Contextualization”
- 2) Prof. Samson Wassara (College of Social & Economic Studies, University of Juba)
- “Indigenous Potentials for Dispute Settlement and Reconciliation Waning in South Sudan: Consequences of Armed Conflicts”
- 3) Mr. Simon Monoja (College of Social & Economic Studies, University of Juba)
- “Ethnicity and Conflict: The Case of Jonglei State”
- Discussant: Prof. Edward K. Kirumira (College of Humanities and Social Sciences, Makerere University)
- 18:30 – 20:00 RECEPTION AT AFRICAN HUT, JUBA GRAND HOTEL
December 7 (Sat.)
- 09:00 – 10:30 PANEL 2: DESIGNING PEACEBUILDING AND RECONCILIATION
- Chair: Dr. Sirisio Oromo
- 1) Ms. Nguyen Thi Ngoc Van (Head of the South Sudan Recovery Fund Secretariat, UNDP) & Dr. Mayumi Yamada (Recovery, Reintegration, Peace Building (RRP) Officer, UN Resident Coordinator’s Office)
- “A Human Rights-Based Approach (HRBA) to Sustainable Peace and Development in South Sudan”
- 2) Hon. David Okwier Akway (Chair, The Peace and Reconciliation Committee, South Sudanese Legislative Assembly)
- 3) Hon. Chuol Rambang (Chair, The Peace and Reconciliation Commission, Government of the Republic of South Sudan)
- Discussant: Prof. Yoichi Mine (Graduate School of Global Studies, Doshisha University)
- 10:30 – 10:50 COFFEE/TEA BREAK
- 10:50 – 12:50 PANEL 3: VIEWS FROM BELOW: LEARNING FROM CASE STUDIES
- Chair: Prof. Samson Wassara
- 1) Mr. Isao Murahashi (Ph.D. Candidate, Graduate School of Human Sciences, Osaka University / JSPS Postdoctoral Research Fellow)
- “Inter-ethnic and inter-communal conflicts after CPA: The root cause of conflicts and the possibility of coexistence in Eastern Equatoria State”
- 2) Ms. Eri Hashimoto (Ph.D. Candidate, Graduate School of Social Science, Hitotsubashi University)
- “Searching for ‘African Potentials’ in the ‘Modern’ Conflicts of South Sudan: An Aspect of Armed Youth and the Prophet in Jonglei State”
- Discussant: Prof. Motoji Matsuda (Department of Sociology, Graduate School of Letters, Kyoto University)
- 12:50 – 14:30 LUNCH BREAK
- 14:30 – 17:20 PANEL 4: CHALLENGES OF GRASSROOTS PEACEBUILDING AND RECONCILIATION
- Chair: Prof. Eisei Kurimoto
- 1) Mr. Michael Arensen (The PACT-South Sudan)
- “Implementing Peacebuilding in South Sudan”
- 2) Ms. Gladys Mananyu (The South Sudan Council of Churches (SSCC))
- “Peoples Voices, Desires for Peace That Starts within Tender Hearts”
- 3) Fr. Archangelo Lokoro (Vicar-General, Catholic Diocese of Torit (DOT))
- “Be a Good Neighbour Yourself”
- 4) Rev. James Ninrew (Nuer Peace Council)
- Discussant: Prof. Sam Moyo (The Executive Director, The African Institute for Agrarian Studies (AIAS))
December 8 (Sun.)
- 09:00 – 11:00 PANEL 5: VIEWS ACROSS NATIONAL BORDERS
- Chair: Mr. Simon Monoja
- 1) Dr. Itsuhiro Hazama (Assistant Professor, Graduate School of International Health Development, Nagasaki University)
- “Peace and Bodily Expression from Below: Violence through Disarmament in Karamoja, Northern Uganda”
- 2) Prof. Tanga Odoi (College of Humanities and Social Sciences, Makerere University)
- 3) Dr. Christine Mbabazi (College of Humanities and Social Sciences, Makerere University)
- “Potential and Limitations of Traditional Rituals in Peacebuilding”
- 4) Prof. Akira Okazaki (Graduate School of Social Science, Hitotsubashi University)
- “Peacebuilding from the ‘Bottom’: African Traditional Wrestling Matches as Potentials for Conflict Prevention and Reconciliation”
- Discussant: Prof. Kennedy Mkutu (International Relations and Peace Studies, United States International University)
- 11:00 – 11:30 COFFEE/TEA BREAK
- 11:30 – 13:00 GENERAL DISCUSSIONS
- Chairs: Prof. Eisei Kurimoto & Prof. Motoji Matsuda (Department of Sociology, Graduate School of Letters, Kyoto University)
- 13:00 – 13:10 CONCLUDING REMARKS (by Prof. Itaru Ohta)
- 13:20 – 14:50 FAREWELL LUNCH