(派遣先国:英国/派遣期間:2015年8月) |
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「南アフリカ・グリクワの人々の歴史実践」 海野るみ(明治学院大学社会学部・非常勤講師) |
キーワード:歴史/記憶の表象, 合唱(/アート), 教会活動, 日常的実践, 近代的概念の援用 |
研究目的南アフリカのル・フレーのグリクワの人々が「歴史」と呼ぶのは、主に合唱などの声を使った行為によって共同体の共有する過去の集団的記憶を想起し表象(表現)することによって、現実に直面する問題に解釈を与える実践あるいは技法である。こうした実践としての「歴史」によって彼らは共同体の内部や外部の他者との関係性を(再)構築、あるいは(再)定義し、その実践を現実社会で直面する多様なコンフリクトを解釈して生き抜く術とする。 本研究では、ル・フレーのグリクワの人々による「歴史」実践が、結果的に紛争の回避や共生に貢献しているのではないかという潜在的可能性を探ることを目的としてきた。 今回は、英国で開催の学会でグリクワの人々が主な実践の技法とする教会における合唱に着目した研究成果を報告することと同時に、資料調査等を通して(i)グリクワの人々の実践・技法(特に合唱)を植民地期の伝道活動と関連づけた研究の可能性、並びに(ii)「コンフリクトとアート」または「コンフリクトと音楽」研究の枠組みでの研究の可能性についての知見を得ることを目的とした。 調査から得た知見学会Christian Congregational Music Conference 2015では、筆者自身の報告(注1)に対するコメントや、他の参加者の報告内容、参加者らとの情報交換や議論を通して、上記目的に掲げた(i)、(ii)の双方の知見を得ることができた。(i)に関しては、特に植民地期の欧米の伝道団による活動における聖歌に関連した幾つかの研究報告(注2)から、南部アフリカにおける伝道団の展開と聖歌について具体的な研究動向と成果を知る機会を得た。また他地域に関する研究や歴史学的研究を行う研究者らの報告や情報交換により、南部アフリカにおける伝道活動やそこでの聖歌の展開の特異性と共通性とを具体的かつ俯瞰的に理解する機会を得た。 (ii)に関しては、上記学会のゲスト・スピーカー(講演タイトル“Music and conflict transformation in Christian worship”)Fiona Magowan氏の所属する北アイルランド・ベルファスト市にあるQueen’s UniversityのInstitute for Study of Conflict Transformation and Social Justiceを訪問し、「アートとコンフリクト」、「音楽とコンフリクト」研究についての意見交換をした。Magowan氏はオーストラリア北部の先住民族のキリスト教音楽を中心としたフィールドワークを行う人類学者であることから、特に先住民族、キリスト教音楽(聖歌)とコンフリクトについての情報交換を行うことができ、今後の筆者の研究の方向性に示唆を与えてもらえる時間となった。また、北アイルランド紛争のなかで、壁画(murals)や造形が活用された経緯を概観的に知る機会を得た。特にそのなかでネルソン・マンデラがアイコン化されて表象されていたことは興味深かった。 注1:報告タイトルは“‘The History is Choir Singing’: An ethnographical study of the historical practice at the Griqua Independent Church in Western Cape, South Africa.” 注2:Philip Burnett “Anglican hymnody in colonial context: The mission stations of the Cape Colony, 1855-1880.”; Ibrahim Abraham, “(G)local is lekker: Unity and division in contemporary Christian worship and popular music in South Africa.”; Jan Hellberg, “Values desired and values performed: A possible method for assessing the local functionality of worship music-making.”など。 |