【2014年度派遣報告】西崎伸子「野生動物保護区における地域住民と保護推進側の対立と解決に関する調査」

(派遣国:エチオピア/派遣期間:2015年1月)
「野生動物保護区における地域住民と保護推進側の対立と解決に関する調査」
西崎伸子(福島大学行政政策学類)
キーワード:エチオピア, 野生動物保護区, 地域住民, 自然資源, 対立

研究の背景と目的

アフリカの野生動物保護政策は、野生動物の保護が優先され、保護区設立の際には、地域住民の自然資源の利用は持続的でないと批判されたり、利用を制限されたりするだけでなく、強制移住という暴力的な解決方法がとられてきた。1980年代以降、環境保全における「持続可能な開発」や「住民参加型」理念の登場によって、地域住民の生活に配慮する方向に変化してきた。しかし、保護政策において、観光収入が豊富な保護区が存在する地域を除いて、住民が十分に「参加」する機会は限定されることが先行研究から明らかになっている。本調査は、地域住民と野生動物保護を推進する側が、1990~2000年代に土地や自然資源などをめぐって激しく対立していたエチオピアのセンケレ・サンクチュアリにおける現在の自然資源の利用の実態を把握することを目的とした。

得られた知見


乾期は、スウェインハーテビースト(絶滅危惧動物・エチオピア固有種)の繁殖期である。(2015年1月撮影)

エチオピアのセンケレ・サンクチュアリでは、保護区を取り囲むようにあった国営農場が1991年の新政権の樹立と同時に大幅に縮小され、使途が定まらない間隙に、住民が違法に占拠したことで、サンクチュアリの管理当局との対立が深まった。 当時の不法占拠の理由は、人口増加によって、「土地無し農民」が出現していることや、この地域の生業である農牧業の季節サイクルにあわせた土地利用を目的としたものであった(西崎、2006)。今回の調査によって、不法占拠後のサンクチュアリの状況について、以下の2点が明らかになった。

①元国営農場の不法占拠から、合法的な土地分割へ
廃止された国営農場は、州政府と住民の合意を経て、正式に住民に分割されていた。この土地の分割は、不法占拠の際と同様に、まず行政区分である村、次に,ゴサ(クラン)というアルシ・オロモの伝統的な社会構造を活用する二段階でおこなわれていた。


サンクチュアリ内の牧草の野焼きは相変わらず地域住民が違法におこなっていた。
(2015年1月撮影)

②住民によるサンクチュアリ内の草地の利用許可
サンクチュアリ内の自然資源を違法利用する住民は、かつて、サンクチュアリ当局に対して、井戸や家畜のための牧草地を政府が準備すれば、違法な利用はしないと述べていた。当時は、周辺に井戸がなく、住民は天水か、遠く離れた川を利用するしかなく、サンクチュアリ内の牧草地の代替地もなかったため、対立は硬直状態に陥っていた。しかし、周辺の地域開発が進むことで、住民にとって切実な問題であった水不足を解消する井戸が数箇所に建設され、クリニックも新たにできていた。また、上記に示したように元国営農場が合法的に利用できることで刈り後放牧が可能になった。これらの地域開発は、住民からの評価も高い。さらに画期的なことは、サンクチュアリ内の牧草利用が周辺住民に部分的に許可されていたことである(ただし、放牧ではなく、草を刈り取る利用に限定)。センケレ・サンクチュアリの現監督官は、住民側と積極的に交渉を重ねることの大切さを述べていて、当局が歩み寄る形で、対立が緩和されている様子が明らかになった。

以上のことから、センケレ・サンクチュアリにおける地域住民と野生動物の保護を推進する側は、新たな局面にはいっていることが確認できた。ローカルな場面における両者のひとつひとつの交渉はともすれば日常に埋もれてしまう小さな出来事であるが、ここに大きな紛争の解決の可能性を見出すことができる。野生動物の保護政策を考察する上で、あらためて、センケレ・サンクチュアリの事例における資源利用をめぐる交渉過程をより詳細に検討する必要があるといえるだろう。

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