【2013年度派遣報告】太田至 “Simultaneous Yet Contradictory Relationships between the Turkana and Refugees in Kakuma Area, Northwestern Kenya: Session ‘New Developments in Analyses of East African Pastoralist Violence'”(第56回アメリカ・アフリカ学会)

(派遣先国:アメリカ/派遣期間:2013年11月16日~25日)
"Simultaneous Yet Contradictory Relationships between the Turkana and Refugees in Kakuma Area, Northwestern Kenya: Session 'New Developments in Analyses of East African Pastoralist Violence'"
太田至(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授)
キーワード:East Africa, Pastoralism, Violence, Insecurity, Shifting alliance

派遣の目的と得られた知見

発表会場の入り口の案内板

第56回アメリカ・アフリカ学会は、”Mobility, Migration and Flows”を全体テーマとして、2013年11月21~24日にアメリカ・メリーランド州のボルティモアにある、Marriott Baltimore Waterfront Hotelで開催された。わたしたちは、” New Developments in Analyses of East African Pastoralist Violence”と題するセッションを組んで、11月23日(午後2時45分~4時30分)に口頭発表をおこなった。メンバーと発表タイトル、および発表内容は以下のとおりである。司会は、わたしとJon D. Holtzmanが務め、ディスカッサントはEmory 大学のPeter Littleに依頼した(アブストラクトは発表タイトルをクリック)。

1. Eisei Kurimoto, Osaka University
Changing Forms of Violence among Agro-Pastoral Societies in Eastern Equatoria, South Sudan

栗本は、南スーダンの東エクアトリアを事例として、暴力的事件がどのような集団によっておこされ、集団はどのように離合集散してきたのかを詳細に論じた。2005年に包括的和平協定が締結され内戦が終結したあとも暴力的衝突は続き、民族内、民族間に重層的で複雑かつ流動的な連合と断絶を生成してきた。政策決定者たちは、こうした衝突を「Cattle raiding/rustling」として片付けてきたが、事実はそれほど単純なものではなく、多層的な文脈のなかに位置づけなければ理解できない。

2. Kennedy Mkutu, United States International University (USIU)
Security in Ungoverned Spaces and the Oil Find in Turkana, Kenya

発表するKennedy Mkutu

ムクトゥは、ケニア共和国のトゥルカナ地域で2012年に石油が発見されたことに焦点をあて、そのことがどのような不安定要素となるか、どのような紛争がおこる可能性があるかを論じた。この地域はケニアのなかでも僻地であり、行政や警察の管理がゆきとどかず、牧畜民がたくさんの小火器を所持している。石油が発見されたことによって牧畜民にとって重要な土地が収奪され、地域の治安はさらに悪化すると考えられる。

3. Itaru Ohta, Center for African Area Studies, Kyoto University
Simultaneous Yet Contradictory Relationships between the Turkana and Refugees in Kakuma Area, Northwestern Kenya

太田は、ケニア北西部のカクマ難民キャンプの住人と地元民トゥルカナの相互関係に焦点をあてて、両者が暴力的な対立をひきおこす一方で、お互いの生存にとって不可欠である親密な社会関係を構築していることを論じた。カクマ難民キャンプは1992年に設立され、2005年のピーク時には95,000人を収容していた。集合的なレベルでは難民とトゥルカナは相互に相手をネガティブに表象しているが、個々人のレベルでは、両者はさまざまなモノ(家畜、ミルク、薪、炭、建材など)の交易をとおして対面的な相互交渉を繰り返し、ポジティブな関係をつくりあげている。

4. Jon D. Holtzman, Western Michigan University
The Usual Suspects: Collective Irresponsibility and Debates of Culpability in Northern Kenyan Pastoralist Violence

ホルツマンはケニアにおけるサンブルとトゥルカナの民族間対立を事例に、「事件の責任」がどのように認知されるのかを、人びとの語りライフヒストリーの分析によって論じた。ある衝突事件がおこるとケニア政府は、関与した民族のすべての成員に「集合的な責任」があるとみなし、その民族の成員に集合的な罰をあたえるか、あるいはその地域のチーフに責任をとらせようとすることが多い。しかし、これは複雑な現実を反映していない。暴力行為の被害者は相手の民族の全体を非難するが、実際の暴力事件は、個人あるは小さなグループがひき起こしており、その人びとはみずからが属する集団(民族)にとっても「他者」にすぎない。しかし、その行為をおこなった者のとる戦略は「集合的な無責任」とよべる態度をとることである。

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