(派遣先国:ケニア/派遣期間:2013年8月9日~9月8日) |
---|
「ケニア共和国トゥルカナ県西部における家畜の略奪と民族間の衝突」 太田至(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授) |
キーワード:東アフリカ, 暴力的衝突, 小火器, 民族間関係, ローカルNGO, ポコット, ジエ, テペス, マセニコ |
研究の背景東アフリカのケニア共和国の北部、エチオピア共和国の南部、南スーダン共和国の南部、ウガンダ共和国の北部をふくむ地域には、牧畜を主たる生業とする多くの民族が生活している。この地域では以前から、民族間で家畜の略奪をめぐる暴力的対立がおきていたが、1980年代はじめからAK-47などの小火器が広く流通し、衝突事件で負傷・死亡する人の数も多くなっている。UNの諸機関や国際NGOは、この地域のローカルNGOに資金を提供しつつ、民族間の和平や共存を目指した活動をおこなってきた。具体的には、ローカルNGOに民族間の衝突の詳細な記録をとらせるとともに、複数の民族のローカルNGOが連携することによって、地方行政をまきこみながら対立民族のあいだで和平会議をひらき、暴力的衝突を収拾しようとしてきた。しかし、その努力はあまり実らず、また、ローカルNGOが集積してきた記録もほとんど活用されていない。 派遣から得られた知見今回の調査では、トゥルカナ県の県庁所在地ロドワに拠点をおくローカルNGOのAgency for Pastoralist Development (APAD)の事務所を訪問し、Davis WafulaおよびJoseph Areng Ekalにインタビューをした。また、同NGOはトゥルカナ県の西部における民族間の暴力的衝突と家畜略奪に関する記録をつけていたため、その資料をみせてもらった。 資料は、2010年4月~2012年2月の22か月のうち、2010年6月、7月、11月、2011年10月、11月の5か月分が欠損しており、17か月間をカバーしていた。その記録には、略奪事件がおこった日付、場所、関連した民族、略奪された家畜の種類と頭数、死者、負傷者が書かれており、事件によっては、銃撃戦が何時間続いたか、奪い返した家畜は何頭であったかも記述されている。 事件がおこった場所は、トゥルカナ県西部の4つのLocationにおよんでいた。すなわち、Lokiriama, Kotaruk, Lorengippi, Lorugum Locationである。その南部には西ポコット県があるが、そのなかのLikitanyala, Kalapata, Akoretの3つのLocationも記録のなかで言及されていた。また、この時期には旱魃のために牧草地や水場をもとめてウガンダ国内に移動していたトゥルカナの人びとも多く、そこで暴力的衝突がおこっている場合もあった。トゥルカナと敵対的な事件をおこしていた民族は、Pokot, JIe, Tepeth, Mathenikoである。 1か月あたりの事件数は3~8件であり、平均は5.8であった。しかし、この記録にあらわれた事件のほとんどは「トゥルカナが隣接民族に襲撃された」ものであり、おそらくトゥルカナも同様に攻撃をおこなっていると思われるため、この地域で暴力的衝突がおこっている頻度は、もっと高いと考えられる。 もっとも略奪家畜数が大きかった事件は、2010年8月7日にジエがトゥルカナから1690頭のウシを奪ったものであり、死者数がもっとも多かった事件は、2011年5月27日におこったものでポコットの襲撃により11人のトゥルカナが死亡している。この事件では約800頭の家畜が略奪されている。 APADの記録には、ケニア、ウガンダの両政府(地方行政)やNGOが協力しつつ、対立する民族の代表をあつめて和平集会が開かれていたことも書かれているが、実際にはほとんど効果をあげていない。 |