(派遣先国:ルワンダ/派遣期間:2013年7月~9月) |
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「ジェノサイド後ルワンダにおける『被害者』と『加害者』の和解の『実践』」 片山夏紀(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻「人間の安全保障」プログラム博士課程) |
キーワード:日常生活, 和解, 「被害者」と「加害者」, ガチャチャ裁判 |
研究の背景と目的本研究の目的は、1994年に勃発し、犠牲者50万人以上といわれるルワンダ・ジェノサイドで危害を被った「被害者」と、ジェノサイドの罪をローカルレベルで裁くガチャチャ(Gacaca)と呼ばれる法廷で裁かれ、服役と公益労働を終えて故郷の村へ戻ってきた「加害者」が、ジェノサイド後いかに和解してきたのかを、当事者への聞き取りから明らかにすることである。 派遣者はこれまでルワンダ・ジェノサイド後の平和構築、とりわけジェノサイドの当事者を対象に和解の研究に取り組んできた。2012年に実施した現地調査にて、「被害者」と「加害者」の和解への認識を探った際に、例えば「『被害者』と『加害者』が互いの家を行き来する」「共に酒を飲む」「共に畑を耕す」「セレモニーに呼び合う」「物を共有する」など、彼ら彼女らが和解を日常生活の具体的な行為として捉え、日々の生活で「共に何かをする」機会を積極的に設けて、和解を「実践」しているのではないかという仮説ができた。今回の調査は、参与観察を通して「被害者」と「加害者」の語りを収集し、和解の「実践」という仮説を検証することを目指していた。 得られた知見派遣者は、ルワンダ西部州ンゴロレロ(Ngororero)ディストリクト、ンゴロレロセクターNセルの人々の家族構成や暮らしぶりを観察しながら、聞き取りを実施した。その結果、ジェノサイドで従兄弟を亡くした「被害者」と、従兄弟の殺人に関与した「加害者」は、徒歩30分圏内に住み、週2~3回の頻度で互いの家を行き来していることが分かった。例えば、派遣者が調査のために「加害者」宅を訪れると、偶然「被害者」が「加害者」宅でグランドナッツの選定を手伝っていたり、「被害者」宅を訪れると、「加害者」の子どもがゴザの上に寝転んで遊んでいたりといった状況がみられた。ジェノサイドから約20年間、「被害者」と「加害者」はどのように関係を築いてきたのか。双方の聞き取りから、「加害者」がガチャチャ後に再度謝罪をし、「被害者」が新しく家を建てる際の資金を工面したり、家づくりを手伝ったり、「被害者」の子どもが仕事や学校の都合で実家から離れて暮らしていた間、「加害者」は長男を「被害者」宅に10年間預けたりした、ということが分かった。なお、援助機関やNGOの関与はない。「被害者」の「ジェノサイド以前は『加害者』は友達だったので、今も友達として付き合っている」という言葉が示すように、当事者たちは長い時間をかけて、関係を修復させてきたことが窺える。ここに、和解の「実践」を裏付ける一例を見出した。 今後の展開その一方で、上述した聞き取り対象者とは別に、親戚を3人亡くした「被害者」と、彼らの殺害に関与した「加害者」は、相互の語りに不一致がみられ、和解を「実践」していない状況が浮かび上がった。「被害者」は「加害者」が謝罪をしないと不満を述べ、「加害者」は殺害への関与を否定している。和解を「実践」する当事者たちと、そうでない当事者たちを分ける違いは何なのか。今後は、この点に着目しながら調査を続けていく必要がある。 |