【2011年度派遣報告】海野るみ「南アフリカのル・フレーの人々の歴史と他者との関係性の構築を通した紛争回避と共生」

(派遣先国:南アフリカ共和国/派遣期間:2012年3月)
「南アフリカのル・フレーの人々の歴史と他者との関係性の構築を通した紛争回避と共生」
海野るみ(明治学院大学社会学部・非常勤講師)
キーワード:歴史geskiedenis, 関係性の構築, 紛争の回避, 共生, 解釈の仕方

研究目的

南アフリカのル・フレーのグリクワの人々の問題解釈の方法である「歴史geskiedenis」の実践に関して、人々の声を使った「歴史」実践を通じた共同体の内部や外部の他者との関係性の構築が、彼らが生き抜く術としてのみならず、結果的に紛争の回避や共生に貢献する可能性を探ることを目的としている。

現段階では、1990年代後半の調査から現在までのグリクワの社会的変化を整理しながら、現状についての調査を行う。特に国や地域行政、NPOなどによる働きかけの影響とグリクワの人々自身の実践とがどのように関連し合い影響しあうかに着目する。

調査から得た知見

1996~97年の長期滞在による調査後、2005年から断続的に短期滞在を繰り返し断片的に変化の過程は見てきたが、そうした変化について検討を行うには至っていなかった。今回は、当初の調査以降の変化について、本格的な検討を始めるための短期の滞在と位置づけ渡航した。

1996年に南部アフリカの先住民族の一つとして国連及び南アフリカ政府の承認を獲得し、さらに政府の復興政策のなかでクランズクが最貧地域の一つに指定されて以降、ル・フレーのグリクワ並びにクランズクには幾つかの変化が見られた。目に見える主な変化には、村落内の道路の舗装化、郵便局や警察の配置、図書館や公民館を含む複合公共施設の建設、公営住宅の建設と同住宅への非グリクワ住民の受入れ、クランズクの村落の入口に名勝旧跡の標識の設置などの国や地方行政による公的な設備の配置と考えられるものがある一方で、ル・フレーのグリクワ独立教会員の増加やそれに伴うと思われる集会所の増築、教会のオフィスも兼ね、ル・フレーのグリクワの首長の執務室ともなっているグリクワ民族会議オフィスの増改築などがみられる。

グリクワ民族会議オフィスの増改築と整備は、ル・フレーのグリクワの意識の変化を具現化していると見ることもできる。同オフィスは1990年代の調査当時は会議室を兼ねる首長の執務室と秘書の部屋及び水回りの設備のみを有するものであった。2003年に前首長が亡くなり現首長へと代替わりする時期からオフィスの増改築が始まり、現在は執務室と秘書室のほか、事務室及び会議室を備え、表にはグリクワ民族会議の看板を擁するものとなった。また会議室は資料室としても使われ、ル・フレーのグリクワの代々の首長たちの肖像や写真などが展示されている。

また、高齢者のためのデイケアの取り組みが始まっていた。これは毎日午前9時から午後2時頃まで希望者が共同組合(ル・フレーのグリクワの共同農場を管理する組合)の建物に集い、朝食と昼食の提供や様々な活動―娯楽やスポーツ、裁縫など―が行われるというものである。ここで作られた作品を販売するコーナーも設けられていた。

今回は、以前の調査では参与観察できていなかった先々代の首長の記念祭(Herdenking: Opperhoof Abraham)に参加することも目的としたが、式典の途中、長老の一人がその場で急死するという事態が起こり、通常の式典は中断されることになった。

さらに、グリクワの児童生徒への教育費支援等を行うBorn in Africaのプレテンバーグベイ市のオフィスを訪ね、インタビューすることができた。(http://www.borninafrica.org/)同団体は近隣地域で教育支援を行っているが、特にクランズクでは小学校で子どもたちの補習を行う教育支援員の配置のための資金支援及び支援員のリクルートやSDを行っている。

今後の展開

今回の滞在では、変化についてのフォローアップに終始した。今後はこれらの事実を整理する一方で、1990年代後半以降、現在までに行われた国や地方の政策や施策についても整理していく必要がある。また今回、幾つかのNPOの存在も顕在化した。これらの外的な施策や支援状況についての調査をさらに進める予定である。

その一方で、こうした外的な影響力がル・フレーのグリクワの人々のあいだでどのように認識され解釈されているのかが、研究目的の達成にはもっとも重要な課題である。今後の現地調査の際にはこの観点から参与観察や聞き取りを行っていきたい。さらに今回、長老の死を経験的に共有したことにより、グリクワの人々からの様々な語りを断続的に聞いた。そこには筆者自身の位置づけを含意するものが多かった。このような彼らの日常的文脈のなかに位置づけられる自身についての語りにも注目して、グリクワの人々の解釈の仕方についてさらに研究を進めたい。

高齢者デイケア

高齢者デイケアでのスポーツ

先々代の首長の記念祭

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