(派遣先国:エチオピア/派遣期間2012年10月~11月) |
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「P3DMを活用した土地紛争の重層的な関係の解明―エチオピア南西部高地農耕民アリの事例―」 久田 信一郎(京都大学アフリカ地域研究資料センター・研究員) |
キーワード:参加型立体地形モデル, 開墾地紛争, 長老調停, 行政介入 |
研究目的エチオピアは、1991年5月に社会主義政権が倒されて、1996年からエスニック・グループ単位の連邦制となった。本事例研究は、アリが住む南部諸民族州、南オモゾーン、南アリ郡、ドルドラ村内のガラメルティ集落にて行なった。この集落は、世帯数が165(人口890人)で、標高が2400-3200mの高地にあり、面積が約2キロ四方で、その東側がドルドラ森林に接している。主な生業は、農耕で大麦、小麦、豆類を栽培し、牛、羊などの家畜を肥育している。これらの家畜は、耕作期間中にドルドラ森林内にて牧童に連れられて放牧されている。アリでは、1990年代初めに急激な人口の増加と家畜の市場価格高騰による肥育数の増加が起こった。調査地では、これと時を同じくして高地の森林部分の開墾が起こった。耕作地を隣接するもの同士の境界線の争いや、家畜が他人の土地で草や作物を荒らす被害の調停は、村の下部組織である集落を単位として選ばれたリーダーか、その村内の長老が行なってきた。それでも解決できないときには、行政組織であるカバレ(村)の評議会に調停や裁決を仰いできた。本調査では、ガラメルティ集落の上層部にて開墾が行なわれたにもかかわらず森林存続に影響を与えた要因を明らかにする。 調査から得られた知見私は2008年5月よりこの地域のアリが住む高地にて住民参加型手法によって作成した立体地形モデルを使って土地利用の視覚化をおこない森林部分の開墾地と開墾者どうしの親族・姻戚関係について調査してきた。耕作地の開墾と森林利用の変化を把握するために、立体地形モデルを使ったワークショップとフィールドワークで得た情報をもとに、親族関係作成アプリケーション(Alliance3.3)を使って親族データベースを作成した。土地利用と親族関係というふたつの属性の違うデータを重ね合わせることにより、誰が誰とどのような関係を持ち、どの部分の森林の開墾を行なったかを把握した。それをもとに森林開墾を止めるために果した長老の戦略について考察した。 その結果、ガラメルティ集落の住民は、血縁の親族単位および姻戚関係を持ち良好な親族・姻戚関係を維持しつつ森林開墾を行ったことを見いだした。1996年以降の森と耕作地の境界は、行政が環境保全や森林資源保全のために指導して定めたのではなく、この集落の長老等が、行政にたいして森林と隣接する地区の住民による行き過ぎた開墾の中止を要請して定めたことが明らかになった。 今後の展開これまで男子だけが父の土地を相続してきたが、近年女子も父の土地の相続を要求し、嫁いだ娘や姉妹が父や兄弟を相手取り村行政に耕作地の分配と相続を直接訴えるようになったといわれる。これは、嫁ぎ先にある夫の耕作地面積が兄弟間での分配が進んだことによって耕作地面積が少なくなったことに原因のひとつが求められている。また現政権がすすめる「男女同権民主化」政策により女子も男子と同じように父の土地の相続を主張するようになったとドルドラム村の村長が証言した。今後は、父子、兄弟姉妹の間での耕作地の相続と分配について、立体地形モデルを使った土地相続の視覚化と、親族関係作成アプリケーションを使った親族・姻戚関係データを比較して、父から娘への土地相続の事例を収集し分析していきたい。 |