【2011年度派遣報告】佐川徹「ケニア北部における集団間関係と治安状況」

(派遣先国:ケニア/派遣期間:2011年11~12月)
「ケニア北部における集団間関係と治安状況」
佐川 徹(京都大学アフリカ地域研究資料センター・助教)
キーワード:平和的共存, 村落部と都市部, 地元民と移住者

研究目的

今回の派遣には二つの目的があった。一つは、12月2日~4日にかけて開催された「第1回アフリカの紛争と共生 国際フォーラム」に参加し発表すること、もう一つは、ケニア北部に広がるいくつかの牧畜社会を訪問し、地域の治安状況や開発政策の進展について見聞を広めることであった。

調査から得られた知見

ナイロビでの国際フォーラムには、日本からの研究者に加えて、エチオピア、ケニア、南スーダン、ウガンダ、タンザニアからそれぞれ2人の研究者が参加し、活発な議論が交わされた。科研事務局からは、ほかに太田至氏、伊藤義将氏が参加した。

フォーラム終了後、ケニア北部への調査行に出発した。今回の調査行の最終目的地は、トゥルカナ湖北東岸にあるエチオピア国境付近の町イレレットであった。イレレットには、私が2001年からエチオピア側で調査対象としてきたダサネッチの人びとがくらしている。ただしここではイレレットについてではなく、出発から三日目に到着したトゥルカナ湖東南岸の町ロイヤンガラニについて記す。ロイヤンガラニは、ある町人によれば「コスモポリタン」な町である。ここには、おもにサンブル、トゥルカナ、レンディーレなど地元の牧畜民がくらしている。サンブルとトゥルカナは、しばしば他の地域では武力紛争を繰り返しているが、この町では平和的な共存を果たしている。また、町には南部から移住してきたキクユの人びとなどもくらしているが、多くの地域でキクユが攻撃対象とされた2007~2008年のケニア大統領選挙後暴動の際にも、この地は平穏であったという。この町には、外国からの観光客も数多く訪れている。とくに、近年になって訪問先として脚光を浴びているのが、人口1000人程度の少数民族エルモロのくらす集落である。彼らのもともとの生業は漁労であるが、最近では土産物販売などが重要な収入の足しになっているという。エルモロを含めた地元の集団は、年に数回町で開かれるCultural Festivalに参加し、各集団の伝統的ダンスなどを披露しあい、親睦を深めている。地元の諸集団、ケニアの他地域からの移住者、そして観光客に代表される外国人が共生していることを指して、この町は「コスモポリタン」だというのである。

今後の展開

これまで私が行ってきた「集団間関係」の研究は、おもに村落部に集落を構えている人びと同士の関係に限定されていたが、今回の調査行では、町にくらしている人同士の関係を探ることの重要性をつよく感じた。村落部ではA集団とB集団との間に武力衝突が起きている時期に、町ではA、Bに属する成員が平和的な共存を果たしていることはよくある。その共存を可能にしている「コスモポリタン」な論理を今後探っていきたい。

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