(派遣先国:ケニア/派遣期間:2011年8月15日~9月3日) |
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「東アフリカ牧畜社会における家畜略奪紛争と民族間関係に関する研究」 太田 至(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授) |
キーワード:小火器, AK-47, レイディング, 商業化, 平和構築, トゥルカナ |
研究目的東アフリカの乾燥地域では、AK-47などの小火器の蔓延が社会的問題となっている。わたしが調査しているケニア北西部では、まず、1979年にウガンダのアミン政権が崩壊したときに、その軍隊から流出した小火器がケニアにもはいってきた。その後、2005年まで続いたスーダンの内戦、そして1991年にソマリアとエチオピアで相次いでおこった軍事力による政権交代などにともなって、ケニア北部の牧畜社会で小火器がはびこるようになった。ケニアの軍隊や警察から銃器や弾丸が横流しされているといううわさも絶えない。一方、東アフリカ牧畜社会では、近隣民族間で家畜を相互に略奪しあうことが続いている。家畜の略奪は、以前は生業のため―家畜を自分たちで飼うため―におこなわれていたが、近年では、略奪した家畜はトラックなどで都市部まで運搬され売却されているといわれている。このような背景のもとで、紛争の実態や民族間関係を記述・分析するのが、わたしの研究目的である。 今回の調査から得られた知見トゥルカナ地域には、民族間の和平や共存を目的としたローカルNGOがいくつか存在する。こうしたNGOは、OXFAMやUSAIDなどから資金を得て、民族間の紛争解決と平和構築を目的とした活動をおこなっている。わたしがインテンシブな現地調査を実施しているトゥルカナ地域の北西部では、カクマを拠点としたLOKADO(Lokichoggio, Kakuma and Oropoi Development Organization)とロキチョキオを拠点とするAPEDI(Adakar Peace and Development Initiative)のふたつのNGOが活動を展開している。前者は主としてトゥルカナとウガンダのジエおよびドドス、後者は主としてトゥルカナとスーダンのトポサとの関係を担当している。そしてこのふたつの組織はいずれも、トゥルカナと隣接民族とのあいだに起こった家畜の略奪・争いについて、情報を収集しながら日誌をつけている。今回の調査では、後者の事務所を訪問して日誌を見せてもらい、2010年1月~2011年8月のあいだにおこった出来事に関する説明を聞くことができた。 日誌の記録をまとめると、2010年(事件数:48件)には、トゥルカナの死者12人、負傷者13人に対して、隣接民族であるトポサ側は死者23人、負傷者4人となっている。また、略奪された家畜は、トゥルカナ側が合計582頭、トポサ側が1378頭である。2011年については1月から8月24日までの記録をまとめると(事件数:54件)、トゥルカナ側の死者31人、負傷者23人、トポサ側の死者13人、負傷者2人である(どちらの年もトポサ側の負傷者数が少ないが、把握できていない部分があるのかもしれない)。また家畜の被害は、トゥルカナ側が計2850頭、トポサ側が796頭である。 この期間中のもっとも大きな衝突のひとつは、2010年2月4日におこっている。トゥルカナがトポサをNadapal地域で襲撃し、460頭のウシと15頭のロバを略奪した。7人のトポサと6人のトゥルカナが死亡、1人のトゥルカナが負傷している。また、2011年2月20日の事件も大きい。このときには逆にトポサがトゥルカナをKalopusukにて襲撃し、トゥルカナ7人が死亡、3人が負傷し、約300頭のウシ、40頭のロバ、560頭のヤギ・ヒツジを略奪されている。 |