[全体会議] 第13回全体会議「アフリカ国家の経済再考:インフォーマリティとユニバーサリティの交錯から」(2019年6月22日開催)

日時:2019年6月22日(土)14:30~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室

はじめに、事務局から以下4点に関する連絡がおこなわれた。
1) アクラフォーラム成果出版の進捗状況
2) ルサカフォーラムの概要
3) プロジェクト成果出版に向けての予定
4) 今後の予定

引き続き、国家・市民班 / 開発・生業班合同ワークショップ「アフリカ国家の経済再考:インフォーマリティとユニバーサリティの交錯から」がおこなわれた。司会を務めた高橋基樹氏(京都大学)による趣旨説明のあと、2つの班を代表し、それぞれ2名ずつ研究発表をし、前半の2つの発表に関しては佐藤章氏(アジア経済研究所)が、後半の2つの発表については大山修一氏(京都大学)がコメントした。最終討論後、松田素二代表(京都大学)から総合コメントがなされた。発表者、タイトル、発表内容は下記の通りである。

発表者1:遠藤貢(東京大学)
タイトル:比較政治学・アフリカ政治論におけるinformal institutionsをめぐって

比較政治学においては、formal institutionsからinformal institutionsへ接近し、そこでは、informal institutionsがいかにformal institutionsを強化したり歪めたりするのかや、informal institutionsの出現のメカニズムなどに関心がもたれてきた。一方、アフリカ政治研究は、informal institutionsからformal institutionsへ接近し、「弱い国家」という視点を共有し、中核的概念として「新家産主義」を抽出した。発表者は、「新家産主義」概念が見落としている政治現象として、formal institutionsの影響の再評価や、formal institutionsとinformal institutionsの相互関係の再考などを挙げ、その課題を論じた。

発表者2:大平和希子(東京大学)
タイトル:フォーマルな制度に組み込まれる伝統的権威—ウガンダ西部ブニョロ王国の事例から

発表者はまず、伝統的権威はフォーマルかインフォーマルかと問うた。そして、各国の伝統的権威のあり方について、憲法に言及されている国では、それらが農村部のガバナンスに影響を与える度合いが強いことを明らかにした。ウガンダでは、伝統的権威は憲法に定められているものの、文化的なものに限定されている。西部のブニョロ王国は、政府のキャンペーンや政策の実施に活用されたり、土地の登記を進めるアクターとして活用されたりするなど政府から利用されている。しかし、石油開発においては、王国の開発のために組織を改編し、王国に利益を誘導しようとするなど、能動的に活動していることなどが論じられた。

発表者3:高橋基樹(京都大学)
タイトル:ケニア・ナイロビにおける国家の不在とインフォーマリティ:公共財形成としてのソファづくりの技術の「贈与」

発表者は、ケニア、ナイロビのウルマ地域におけるソファ製造・販売の事例から知識公共財の形成について議論した。この地域でソファ製造・販売をおこなう店舗は1982年の5,6軒から100軒くらいにまで増加した。この間、1軒の規模拡大はみられず、同業者が増加する「水平的拡大」という大規模化を伴わない発展がみられた。ソファづくりの技術は、無償で知り合いから伝授されており、その知識は公共財として共有されていた。つまり国の役割がないインフォーマルなものとして形成されていた。このような状況では、アダム・スミスが指摘した企業が抱える3つの問題(1.在庫の問題、2.齟齬・紛争の問題、3.不慮の事態への適応性)の点からも、規模拡大よりも「水平的拡大」が理にかなっている。ここで見られた無償の技術の「贈与」は、国家と市場による技術移転よりもユニバーサルなおこないであるのかもしれない、という可能性が論じられた。

発表者4:早川真悠(国立民族学博物館)
タイトル:ハイパーインフレ期におけるジンバブエのインフォーマル経済:貨幣をめぐる「キヤキヤ」とユニバーサリティ

発表者は、ハイパーインフレ期のジンバブエにおけるインフォーマル経済を例に、ユニバーサリティの多様性について議論した。2008年にインフレ率が年率2億3100万%に達したジンバブエでは、モノ不足と現金不足が生じる中で、「キヤキヤ」経済と呼ばれるインフォーマル経済が主要機能を担うようになった。ここでは3つの「キヤキヤ」経済活動が紹介された。第1に、経済活動を外貨でおこなうようになった。第2に、外貨をジンバブエ・ドルに換金する際の現金レートと預金レートの差を利用して儲ける「カネを焼く」活動、さらには、預金で商品を買って、現金で売る「バコシ」商法が大流行した。第3に、露天商らは少額の商品を仕入れ、すばやく回転させる方法で毎日、現金収入を得ていた。以上の取引はそれぞれで重視される貨幣の機能・用途が異なる。投機機能をもつ「バコシ」商法や交換機能による露天商の経済活動は、フォーマル経済における「閉じられた公共性」とは異なる公共性とみなすことが可能かもしれないことが論じられた。

市野進一郎/平野(野元)美佐

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