[班研究会] 環境・生態班第8回研究会(2018年12月22日開催)

日時:2018年12月22日(土)12:00~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階318号室

今回の班研究会ではゲスト・スピーカーを2人招いた。1人目は京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程に在籍する大塚亮真氏で、「ウガンダ共和国ブウィンディ原生国立公園における住民参加型保全の現状と課題―マウンテンゴリラとの共生を目指す地元のボランティア活動に着目して」と題して、博士予備論文の内容を中心に最近の取り組みも交えて話してもらった。主にはサバンナで行なわれている大衆向けのサファリ(野生動物観光)と比べて、東アフリカのウガンダやルワンダなどで近年盛んになっているゴリラ・ツーリズムは観光客1人当たりの費用が高い。ウガンダにおいては、ゴリラ・ツーリズムは極めて重要な経済活動となっているという。しかしそのゴリラ・ツーリズムが、経済成長だけでなく環境保全(そして多くの場合は社会開発や文化保存も)を重視するエコツーリズムと捉えられている時、現場ではエコツーリズム(ゴリラ保全)として求められるルールが必ずしも守られていない事実が報告された。総合討論では、ゴリラ・ツーリズムの具体的な手続きや手順、問題となっているエコツーリズムのルールの科学的な妥当性、観光客だけでなく地元出身のガイドがエコツーリズムないしそのルールをどのように認識しているのかといった点が議論となった。

2人目のゲスト・スピーカーは中部学院大学教授の竹ノ下祐二氏で、「彼らや私は、ほんとうは何をしたいのだろう? 多様なステークホルダーに囲まれて」という題で、自身が関わってきたガボンにおける実践的プロジェクトの内容およびそれへの反省等が語られた。産油国でもある中央アフリカのガボンは、近年では国策として類人猿も含めた自然環境を基盤とした観光の開発を進めるようになっている。もともと類人猿の自然科学的な研究を行なってきた竹ノ下氏は、そうした中でガボンにおけるエコツーリズム開発を主題とする実践的な研究プロジェクトに関わりもした。ウガンダやルワンダなどの東アフリカ諸国と比較すると、ガボンなど中央アフリカにおいてゴリラ・ツーリズムを開発することには、景観の見晴らしの問題やゴリラの人馴れの問題、観光地に至るインフラ整備の問題など種々の困難が伴う。また地域社会の紐帯やゴリラの文化的な意味の希薄さから、ゴリラを中核に据えて住民参加型のプロジェクトを推し進めていくことも容易ではない。さらに、観光(エコツーリズム)という商業行為の対象としてゴリラを用いることに起因する心理的な葛藤もある。発表の中では竹ノ下氏の個人的な情感が何度となく吐露された。それを受けて総合討論の場では、ゴリラ・ツーリズムの可能性や東(マウンテンゴリラ)と中央(ニシローランドゴリラ)の地域差、研究者コミュニティ間のアプローチや考え方の違いなどとともに、竹ノ下氏の主観的嗜好のあり方も議論の対象となった。

これまでの班研究会では「アフリカ潜在力」に関する思考を整理することに時間を割いてきたが、今回は一転して「アフリカ潜在力」という言葉にはこだわらない研究発表を題材に議論を行なった。その結果、議論の過程で環境・生態に関する「アフリカ潜在力」を考える上で重要と思われる論点――保全/開発をめぐる受益と受苦の問題、制度設計の順応性の重要性など――がコメンテーターの岩井から提起され、竹ノ下氏からもその重要性を指摘する意見が出された。これらの点は過去の班研究会の中で言及されてもいたものであり、今後さらに議論を精緻化すべき論点が今回の班研究会を通じて明らかになったといえる。

目黒紀夫

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