第35回日本オセアニア学会研究大会
「アフリカ潜在力」プロジェクト・オセアニア学会合同シンポジウム
タイトル:「紛争と共存をめぐるローカルな対処―オセアニアとアフリカの事例から」
日時:2018年3月23日(金)8時45分~10時15分
場所: 海洋博公園内・美ら海水族館イベントホール
- 司会 窪田幸子(神戸大学大学院国際文化学研究科)
- 竹川大介(北九州市立大学文学部)
「島嶼共同体における和解のためのガバナンス:人類の普遍的道徳基盤の視点から」 - 大津留香織(北九州市立大学大学院社会システム研究科)
「重奏する「物語」実践による関係修復:バヌアツ共和国の事例から」 - 大山修一(京都大学アフリカ地域研究資料センター)
「西アフリカ・サヘル帯における農耕民と牧畜民間の紛争予防の試み:作物の食害に起因する武力衝突の回避と交渉に着目して」 - 阿部利洋(大谷大学文学部)
「南アフリカの和解政策をどのように評価するか」 - 木村大治(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
コメント
日本オセアニア学会は太平洋地域を対象とし、1977年に設立された。2017年度の第35回研究大会は40周年記念大会として開催され、そのなかで「アフリカ潜在力」プロジェクトと日本オセアニア学会の合同シンポジウムが開催された。
窪田氏より、基盤(S)アフリカ潜在力プロジェクト(代表者 松田素二)と特設分野プロジェクト「紛争解決のための応報と修復の共同体ガバナンス:環境保護団体とイルカ漁の事例から」(代表者 竹川大介)との合同シンポジウムであり、オセアニアとアフリカにおけるローカルな対処を取り上げるという趣旨説明がおこなわれた。
竹川氏は、公平さや公正さに関わる情動である「互恵」と相手の意図をくみ取り行動する「共感」というキーワードを説明したあと、過剰な贈与による氏族間の衝突回避、イルカ漁の中止契約と代理人の契約金の着服をめぐる和解の事例について考察を加えた。小さな共同体では、互恵を重視した応報的正義よりも、相手が自分と同じ感情をもっているという共感にもとづく修復的正義が重要になることを明らかにした。
大津留氏は、バヌアツのエロマンガ島における19世紀に殺害された宣教師の170年後の和解の儀式、伝統的な歌やダンスの使用をめぐる北部と南部の対立をめぐる謝罪の儀式をもとに、事実の解釈と語り、共感の繰り返し、現実と物語づくりのループによって「物語」が書き換えられ、修復の継続と持続的な納得の実現が可能となっていると結論づけた。
大山氏は、西アフリカのサヘル地域における農耕民と牧畜民の紛争が、家畜による作物の食害を契機として起きていること、被害者と加害者の両者が直接、対峙せず、暴力へのエスカレートを回避しているが、コミュニティにおける対話にもとづく紛争予防は殺傷事件やボコハラムによるテロの回避には機能しないことを明らかにした。
阿部氏は、民主化移行期の南アフリカで実施された和解政策を取り上げた。証言聴取や加害者への特赦を通じて社会統合を図る取り組みには国内の各政治勢力からさまざまな批判が寄せられたが、その事態に集合的な対立関係を変化させる契機を読み取ることができると考察した。
コメンテーターの木村氏は各発表の論点をまとめたうえで、カメルーン熱帯雨林のボンガンドの結婚を例示し、関係性の維持・修復には動き続ける必要があり、状態よりも行為の継続性が重視されること、ローカルなレベルでは近代性(modernity)とは相容れない性質をもつ「曖昧さ」や「主観性」が重視されていることを指摘した。
総合討論では、オセアニアとアフリカにおけるコミュニティ内部、または外部との交渉・和解に特徴や傾向性は認められるのか、賠償や贈与、和解、儀礼については社会的コンテキストに即して吟味し、紛争や共生をめぐる住民の主体的な取り組みに着目する重要性、定義の定まらない「和解」のあり方をローカルなレベルで解明する重要性が確認された。