日時:2017年7月10日(月)14:00-17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階301
(以下、敬称略)
報告タイトル:スーダンにおけるFGM/C正当化の論理とその変容
氏名:モハメド・オマル・アブディン
所属:学習院大学
スーダンの女性性器切除/割礼(FGM/C)の現状についての報告がなされた。
スーダンでは、かつては陰部封鎖型(WHOのタイプ3)のFGM/Cが広く行われていた。現在では、多くが切除型(タイプ2)、クリトリス切除型(タイプ1)に移行している。しかし、廃絶には至っていない。
タイプ移行の要因としては、政府が国際的な廃絶運動の流れの中で、FGM/C廃絶を推進していること。NGO、CSO、そのほか芸能人、有識者も、国連機関やEUのバックアップで廃絶を推進していること。また、インターネットや衛星放送の普及で、人々がサウジアラビア等の宗教指導者の見解(FGC/Mはムスリムにとって必要ではないとする)を知ることになったこと、などがあげられる。スーダンの人々は、村の草の根の宗教指導者(イマーム)の見解よりも、インターネット等を通じて、国際的な宗教指導者の見解に接し、それを受容するようになっている。
他方で、スーダンの宗教指導者(とくに大衆的な人気のある指導者たち)の多くは、タイプ1のFGM/Cを支持しており、政府のFGM/C禁止の法制化に強く反対している。彼らがFGM/Cについてどのような立場をとるのかは、それによってどれだけ大衆的な支持を得られるのかという計算にもとづく部分が大きい。
このようななかで、スーダンの人々のFGM/Cへの見解は大きく変化してきている。現在スーダンでFGM/Cが継続しているのは、人々がかつて人類学者が記述してきた精緻なコスモロジーにもとづく「伝統」に従っているからではない。グローバルな廃絶運動と、政府やNGO、そして大衆的な人気獲得を必要とする宗教指導者たちのあいだでの、政治的な駆け引きがなされるなか、宗教指導者が廃絶運動に対する抵抗と大衆的な人気の獲得をうまく結び付けていることによってである(「伝統」から「宗教」へ)。
また娘をもつ両親は、自分たちの置かれた状況を顧みることで、このような多様な見解の中で自分の状況に適した見解を選択し、娘のFGM/Cに関する意思決定をするようになってきている。
宮脇幸生