[全体会議] 第5回全体会議「教育・社会班からの報告」(2017年6月17日開催)

日時:2017年6月17日(土)15:00~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
(以下敬称略)

はじめに事務局連絡として、代表の松田素二より、南アフリカのローズ大学で11月24日~26日に行われる「アフリカ・フォーラム」について、Nationalism and Universalism in Africaというテーマで準備が進んでいることが伝えられた。またEuropean Conference on African Studies (ECAS)への参加、アメリカ・アフリカ学会(ASA)でのパネル参加などメンバーによる成果発信活動と、昨年の「カンパラ・フォーラム」をまとめたAfrican Study Monographs (ASM)の出版に関する報告があった。加えて、「次世代調査支援事業」について推薦願いがあった。最後に事務局の山越言より、今後の全体会議の日程・内容の確認、班会議の運営等についての連絡があった。

引き続き、教育・社会班メンバーにより、「教育・社会班にからの報告」が行われた。

はじめに司会の大塲麻代が、教育・社会班のメンバー紹介、昨年度の班活動報告を行った。昨年度1年間の班会議では、教育学専門のメンバー、人類学専門のメンバー、政治学専門のメンバーが議論を行い、互いに理解を深めてきたことが報告された。

事例報告では、発表者の中和渚が、「数学教育からの話題提供:民族数学とカリキュラム開発」と題して報告を行った。数学教育学は、数学、教育学、歴史学、心理学、文化人類学といった多岐にわたる学問領域にまたがり発展し、認識論的問題、学習指導の問題、カリキュラムの問題、教師教育などを研究課題としている。数学教育学における一つの研究課題である民族数学は、1970年代後半から本格的に発展した。1980年代の「Mathematics for All」が先進国のカリキュラムモデルを開発途上国にそのまま持ち込んだことの反省から、学校数学とは異なるローカルな数学の内容や教授法、カリキュラムやプログラムの開発などの問題に取り組んできた。具体例として、世界的にも民族数学のコンテンツとして有名なアンゴラの砂絵や、モザンビークの建物建設の手法を取り上げ、発表者自身のザンビアでの幼児教育現場の映像も提示された。ザンビアの場合、カリキュラムは民族数学を意識した内容とはなっていないのだが、教員自らが身近な文化的素材を探して幼児に数学を教授している例がみられ、そこに民族数学の可能性を見出しうることが論じられた。

1人目のコメンテーターの網中昭世は、政治学の立場から、民族の実践をその歴史的・政治的背景から切り離してコンテンツとして教授することの危険性、民族性を称揚するようにみせて抑圧した南アフリカのバンツースタン教育のようになってしまう可能性、教育カリキュラムを誰がどのような目的で作成するかを意識する必要性などを指摘した。2人目のコメンテーターの高田明は、民族数学がどのような教授目的やより広い教育目的を持っているのか、これまでの幼児教育との関連性は何か、発達段階と関連付けた場合の民族数学の固有性は何か、調査地で学校を「実践共同体」として考察できるのか、近代教育が国民国家体制と結びつくなかで民族数学はどのような立場をとりうるのかなどの人類学や発達心理学に関連した指摘を行った。

教育・社会班班長の山田肖子は、民族数学が学校数学や学校というinstitutionとどのような関係を取り結ぶのかを考察する重要性を述べ、教育・社会班の方向性として、学校がもつ排除や強制という側面、学校での教授内容が価値フリーではないことなどを意識して、学校外での生活や活動にも視野を広げて研究を進めていくことを述べた。

フロアからは、アフリカにおける理数系教育への評価の問題やイリイチの脱学校の議論との関連、ザンビア北部に居住するベンバの数の数え方と学校数学カリキュラムとの関係性、言語学での大言語と小言語との対比、数学の特異的立場についてなど多くの質問やコメントが出た。中和は、今後のフィールド調査において、これらのコメントや指摘を活かしながら民族数学的な視点を含めて研究を深めていくとした。

平野(野元)美佐

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