日時:2017年1月28日(土)11:00~13:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室
(以下敬称略)
対立・共生班+国家・市民班合同研究会
報告タイトル:武力紛争研究の発展と展開──「アフリカ潜在力」との関連
氏名:栗本英世
所属:大阪大学
本発表は、日本のアフリカ研究者による武力紛争研究の史的展開を鳥瞰したものであり、特に若手中堅のアフリカ研究者にとっては、先達の知的営為(格闘)のあり様を生き生きと学び、咀嚼することができる、実に刺激と示唆に富んだ大変貴重な機会となった。発表者(栗本英世)はまず、「京都大学アフリカ類人猿学術調査隊」人類班のリーダーとして1960年代にタンザニアの牧畜民ダトーガの調査を行った富川盛道の武力紛争研究を取り上げた。発表者によれば、富川は、ダトーガが「不倶戴天の敵」であるマサイを敵ではなくむしろ「おなじ種族」とみなし、親近感さえ抱いていることを見出したという。そして、そこにみられる「地域性」を「共在性」と読み換えた上で、発表者は、そのなかにこそ「アフリカ潜在力」のひとつの有力な可能性が秘められている、とみる。次いで本発表では、エチオピア西南部のオモ川下流域をフィールドにしつつ日本における人類学的紛争研究の地平を切り拓いた福井勝義の調査と研究成果が振り返られた。福井による牧畜民ボディの研究の衝撃は、「自分の好みの去勢牛が死んだら、他民族を殺す」という驚くべき「発見」にあり、そこでは「攻撃性を誘発する「文化装置」の探求」がなされた。このほか発表者は、ソマリアからエチオピア南部などをへて中央アフリカやチャドにいたる、国家や政府による統治の度合いが低く、逆に民族集団の自律性が高い広大な空間を対象とした研究群に言及し、そこでは、家畜の掠奪や人間の殺戮が、国家権力による介入の対象にはならずに放置されるか、国家支配がこうした周辺化された空間に現前する場合には、懲罰的遠征に代表されるような、むきだしの暴力の様相を呈することが明らかにされてきた、と指摘する。さらに、アフリカ紛争研究がやがて「集団から個人へ」と分析のレベルを深化させ、紛争は集団間で行われるものではあっても、そうした集団の「境界を超えた紐帯」が存在し、集団間の暴力的な紛争が継続しても、ある程度の法と秩序が維持されうるという知見が共有されてきたという点も指摘された。そして、このように日本のアフリカ武力紛争研究の展開を史的に俯瞰した上で発表者は、個人から「中間集団」をへて「国民」にいたる多様な「当事者」「主体」あるいは「アクター」が相互作用するなかで、アフリカの武力紛争がいかに生成・発展し、そして沈静化するのか、その過程と動態を詳細かつ透徹に記述し分析することの重要性を謳って発表を終え、その後、会場の聴衆と発表者の間で活発な質疑応答と議論が展開された。
落合雄彦