日時:2017年1月28日(土)13:30~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
(以下敬称略)
松田素二よりカンパラ・フォーラムの開催、峯陽一よりケープタウン・コロキアムの開催について報告したあと、来年度の研究会開催など、メンバーに対して事務局からの連絡をした。
今回の第3回全体会議について、研究代表者の松田素二から趣旨説明があり、あらかじめ各班長に対して提示していた5つのクエスチョン(①現代世界の直面する問題に対するアフリカ社会の貢献のあり方、②社会のなかでの現実の事例や具体的な作用、③グローバルなシステムや価値観との関係性、④アフリカ潜在力のネガティブな面、⑤ユニークな認識論や存在論の可能性)に関して説明があった。
発表1:開発・生業班 班長の報告
発表者:高橋基樹(京都大学)
発表者はまず、開発・生業班として個々人のケイパビリティだけでなく、それを可能にする環境や制度に着目することの重要性を提示した。人びとは所与の社会環境と制度(人びとの選択と行動に関する共通理解)の下に生きており、共通理解の形成過程は社会によって異なり得るという点から、アフリカなりの開発・潜在力のあり方も他とは異なり、アフリカのなかでも多様性を帯び得ることが論じられた。そのうえで、開発・生業班では互酬や再分配、相互扶助といった社会的紐帯をアフリカなりの「開発」に関わるものと位置づけることが述べられた。
発表者2:環境・生態班 班長の報告
発表者:目黒紀夫(広島市立大学)
発表者はまず、フェーズ1の『アフリカ潜在力シリーズ』からの踏襲点として、「欠如態」として理解されてきた地域として「アフリカ」を位置づける点、アフリカを「欠如態」と理解するグローバルに支配的な知識や思想、実践への批判として「アフリカ潜在力」を位置づける点などを挙げた。これらの点を踏まえ、環境・生態班では「アフリカ」における人と自然の関係についての3つのドグマを議論の対象でなく背景としてとらえ、多様な主体の協働や重層的で包括的、順応的な仕組みを掲げる新自由主義的な環境ガバナンスを批判的な検討の対象とすることが示された。
発表者3:国家・市民班 班長の報告
発表者3:遠藤貢(東京大学)
発表者は、フェーズ1の議論と『アフリカ潜在力シリーズ第2巻』の論点を紹介したうえで、アフリカ潜在力の定義を精緻化するのではなく、アフリカという地域を再考するための視角としてアフリカ潜在力を問うていく方向性を提示した。それは、ブルーベーカーの指摘を援用し、意味なさそうに見える日常行動のなかで作用する過程を明確化し、この原理が作用する過程を理解することである。アフリカには、アフリカの苦難のなかから生まれた優秀な人材、生存戦略が発揮されることもある。そして、外的環境を政治的な集権化と経済的な蓄積過程における主要な資源に転化する外向性/外翻(Extraversion)が存在する。こうした動きは、ときにグローバルな規範と対立したり、ネガティブに作用することもあるということが示された。
発表者4:対立・共生班 班長の報告
発表者:落合雄彦(龍谷大学)
「アフリカ潜在力が何か」を直接、問うたり、これまでの研究成果に「アフリカ潜在力」というラベルを貼ったりするということを自制するとともに、「アフリカ潜在力」を紡ぎ出すために「微視的巨視」という概念を提示した。たとえば、ニャムンジョ(ケープタウン大学)のようにコンヴィヴィアリティや不完全性という人間観の概念を用いて、アフリカ潜在力を議論するという方向性は、「微視的巨視」の仕掛けのひとつである。対立・共生班のメンバーは大きく人類学と政治学を専門とする研究者から構成されており、班としての成果を出していくためには、班長および各メンバーが「個人」に照準を合わせ(微視化)、「変わる/変える苦痛」をすることによって、現代世界の直面する諸課題の解決に資する「アフリカ潜在力」の巨視ができる可能性を示した。
発表者5:言語・文学班 班長の報告
発表者:竹村景子(大阪大学)
発表者はまず、アフリカが「国家」に取り込まれた結果、個人の中の2つ以上の言語能力を尊重する「複言語主義的」言語状況がうまれていること、そしてヨーロッパの理想とするこの言語状況が、アフリカの言語的潜在力になりうることを論じた。次に、文学的潜在力として、西洋出自の「書かれた文学」や出版を通し、作家が厳しい環境のなかでも創意工夫をしながら書き、発表し続ける姿勢が論じられた。また、研究者がこのような潜在力の実態を記録して外に発信し、その反応を地元にフィードバックする必要性や、ともすればアフリカを見下ろす響きをもつ「アフリカ潜在力」概念を批判的に議論する必要性についても論じられた。
発表者6:教育・社会班 班長の報告
発表者:山田肖子(名古屋大学)
発表者は、「教育・学習」というテーマが、教育学にとどまらず、人類学、経済学、政治学、文学・言語学など多くの学問分野に関連するテーマであると述べる。そして、教育は価値中立的なものではなく、またその制度は意図するかどうかに関わらず、階級創造機能や階級再生産機能をもち、既存の社会構造を支えている側面があると論じた。そして、教育学や人類学の専門家で構成されている教育・社会班は、学校知と伝統知、語られる「知」と行動される「知」との関係を探りながら、そこにアフリカ潜在力をみようとし、その試みによって、知識を構造から切り離す教育の在り方を模索することが述べられた。
発表者7:ジェンダー・セクシュアリティ班 班長の報告
発表者:椎野若菜(東京外国語大学)
発表者はまず、ナイロビ「スラム」における「コンパクトハウス」プロジェクトと、住民の視点から都市の暮らしをデザインするケニア人建築家の実践について紹介し、アフリカではアカデミズムと一般庶民とのかい離が大きいため、アフリカ人研究者だけではなく実践者とも共同して研究を進めるべきだと述べた。また、さまざまな社会変化におかれたアフリカ女性の取り組みを潜在力として理解するためには、都市と地方との関係性、アフリカ的都市化とは何かなど、広い文脈に位置付ける必要性や、調査者自身のジェンダー・セクシャリティについても考察対象にすべきであることなどが論じられた。
大山修一、平野(野元美佐)、桐越仁美