「アフリカ-アジア関係研究の現在とその課題」
山本めゆ
(派遣先国:タンザニア・ダルエスサラーム /海外出張期間:2018年9月17日~28日)
活動概要
アフリカ-アジア関係研究は、「アフロ-アジア関係研究」「アフラシア研究」などさまざまな呼称があるが、近年飛躍的な前進を遂げている。重要な成果としては、アリ・マズルイとセイフディン・アデム編『Afrasia: A Tale of Two Continents』(Mazrui & Seifudein 2013)や、ラポーゾ、アラセとコーネリセン編『The Routledge Handbook of Africa–Asia Relations』(Raposo, Arase & Cornelissen 2017)が挙げられるだろう。大規模な学術研究ネットワークや国際研究集会も設立・開催されている。先鞭をつけたのはオランダのライデン大学の構想で、2012年にザンビアで開催されたラウンドテーブル会議において「The Association for Asian Studies in Africa (A-ASIA)」が誕生、2015年には第1回会議「Africa-Asia: A New Axis of Knowledge」(於ガーナ大学)が実現した。またドイツのフランクフルト大学でも、2013年に「Africa’s Asian Options (AFRASO)」が誕生している。こちらはマレーシア・マラヤ大学のAfrica-Asia Development University Network (AADUN)との連携のもと、2014年にはクアラルンプールで国際会議が開催された(Iwata 2014)。日本においては、2018年に「Japan Society for Afrasian Studies」が発足している。アフリカ-アジア関係に関連する論考としては、高橋(2017)や峯(2017)もある。
今回のタンザニア・ダルエスサラーム訪問の目的は、このアフリカ-アジア関係研究の最前線を調査することであり、主に2つの活動を行なった。
①「Africa-Asia, A New Axis of Knowledge – Second Edition」(於ダルエスサラーム大学)への参加・アフリカ-アジア関係に関連する研究動向の調査と研究者とのネットワーク構築
「Africa-Asia, A New Axis of Knowledge」の2回目にあたる会議で、今回は56ヶ国から約400人の研究者が参集、約100のパネルやラウンドテーブルが開催された(注1)。報告者自身も「Law Courts and Legal Intermediaries」というセッションで「Beyond an Atlantic-Centred Paradigm of Racism: Construction of Whiteness and Asian Mobilities in the Historiography of South Africa」という報告を行なった。
学会中、アフリカ人研究者たちとの会話からは、アフリカ-アジア関係研究の取り組みでありながらライデン大学がこのネットワークのイニシアチブを取っている状況に対して、感謝とともに疑問や懸念の思いも共有されていることが伝わってきた。今後はこれが大きな課題となっていくことが見込まれ、アジア発の活動にもさらなる期待が寄せられるようになるだろう。また、この会議のキーノート・スピーカーのひとりは、京都精華大学学長のウスビ・サコ先生だったが、いくつものラウンドテーブルで精力的に報告・発言されたうえ、ランチタイムやレセプションのような場でも引っ張りだこで、サコ先生がすでにアフリカ-アジア関係研究の象徴になっていることを体感することができた。
② アフリカにおけるガンディー像に関する予備的調査
近年、アフリカ内外でガンディー像に対する撤去要求運動が展開されており、国際メディアでも大きく報じられるようになっている。もっとも活発なプロテスト運動が展開されてきたガーナ大学では、2018年12月にキャンパス内のガンディー像が撤去された。
このような現象の背景としては、以下の3点が考えられる。a. インドが文化交流の一環としてアフリカ各地にガンディーの銅像や胸像を寄贈している、b. 南アフリカ・ケープタウン大学で発生したセシル・ローズ像撤去要求運動(牧野2016)の伝播、c. 南アフリカにおけるガンディー研究の進展により、ある時点までのガンディーがヨーロッパ由来の人種観をそのまま受容し、アフリカ人のレジスタンス闘争を弾圧する側に立っていたことなどが知られるようになった(Desai & Vahed 2016)。
ダルエスサラーム大学にも2014年にガンディーの胸像が贈られ、Council Hallに据えられたジュリウス・ニエレレの胸像の横に並べられている。今回キャンパス内で調査を行なった限りでは、この胸像に対するプロテスト運動や批判は起きていないという。また、インドからダルエスサラーム大学に派遣されているインド人研究者2名にインタビュー調査を実施したが、「なぜガンディー像なのか」という問いについては、ガンディーが南アフリカに21年間居住していたことに加え、「中国が各地に<孔子>を建造しているから」という返答もあり、インドが中国の対アフリカ政策を強く意識していることが伝わってきた。実際、2018年5月には、インドがアフリカ21ヶ国に「ガンディー・コンベンション・センター」を建設するという構想も発表されている(注2)。ガンディー像をめぐるプロテスト運動は、今後さらに拡大する可能性もある。アフリカ-アジア間の真の友情のためには、非調和的な過去にも向き合っていく必要があるだろう。
(注1) https://icas.asia/en/africa-asia-new-axis-knowledge-second-edition
(注2) https://economictimes.indiatimes.com/news/politics-and-nation/india-takes-convention-centre-route-to-africa/articleshow/64153493.cms
Desai, A. and G. Vahed, 2016, The South African Gandhi: stretcher-bearer of empire, New Delhi: Navayana.
Iwata, Takuo, 2014, “Network Formation Challenges for African Studies in Asia”, 『立命館国際研究』27-1: 95-115.
牧野久美子, 2016,「『Must Fall』運動を振り返る−2015年の南アフリカにおけるプロテストの軌跡」, 『アフリカレポート』No.54, 日本貿易振興機構アジア経済研究所: 44-49.
Mazrui, A. A. and S., Adem, 2013, Afrasia: A Tale of Two Continents, Lanham, Md.: University Press of America.
峯陽一, 2017, 「アフラシアを夢見る−アフリカとアジアの架橋を目指す国際関係論」, 遠藤貢・関谷雄一編『東大塾 社会人のための現代アフリカ講義』, 東京大学出版会: 243-268.
Raposo, P., D. Arase, and S., Cornelissen, 2017, The Routledge Handbook of Africa–Asia Relations, London: Routledge.
高橋基樹, 2017, 「アフリカと日本のかかわり−そのあり方と新しい展開」, 遠藤貢・関谷雄一編『東大塾 社会人のための現代アフリカ講義』, 東京大学出版会: 105-134.