「カメルーン、インフォーマル・セクターの事業拡大とワークシェアリング」
平野(野元)美佐
(派遣先国:カメルーン・ヤウンデ/海外出張期間:2018年12月6日~15日)
1997年~1998年にカメルーンの首都ヤウンデで話を聞かせてもらったインフォーマル・セクター従事者に、2016年から会い続けてきた。
ほかに仕事がないなどの理由で、インフォーマル・セクターに参入する人たちが大勢いる。ヤウンデの人口はこの20年で3倍となり、その多くの人たちが、インフォーマル・セクターに参入し、生活をたてようとしている。カメルーンにおいて、1975年に、労働人口の33%がインフォーマル・セクターに従事していると推定され、その割合は1998年には72%(K. Fodouop 2007: 57)、2007年には90%となっている(Ndumbe III 2007: 7)。実際、交通量が激増し、渋滞しがちな車を縫うように行き交う行商人は、20年前よりずっと増えた印象がある。ヤウンデ最大のモコロ市場の周辺は、そのような行商人が道を闊歩しており、歩くのもままならない。インフォーマル・セクターに参入する際、行商から始める人が多く、そのせいか、多くの若者がさまざまなモノをぶら下げて歩いている。滞在中はクリスマスの前で、クリスマス・ツリーや飾りなどを売り歩く若者が多くみられた。こうした「下積み」から商売を大きくする人たちは、確かにいる。1997年に聞き取りをしたとき、道端の露店で金物を売っていたJさんは、店を構え、家を買うなど、100人を超える聞き取り相手のなかでも成功した人の1人である。しかし彼も、事業においては多くの問題を抱えていた。
2016年に再会したとき、Jさんは大きな店舗を構え、彼の事業は順調そうにみえた。しかしまもなく彼はその店を閉めてしまった。理由は、競争相手が増えて金物業が前ほどうまくいかなくなったことと、従業員の裏切りに疲れてしまったからであった。悪事を働き店に大きな損害を与えた従業員を、不本意ながら警察に突き出し、裁判をしたこともある。金物業はどうしても多くの従業員が必要となるため、Jさんは最近、化学薬品を小売りする新たな事業を始め、息子と2人で切り盛りできる小さな店を営んでいる。
これまでインフォーマル・セクターの議論では、フォーマル化すること、零細企業を大きくすることが一つの課題とされてきた。Jさんはいってみれば、それを実現したわけである。露店から常設店舗を作り、事業を拡大し、多くの人を雇い、雇用をつくりだした。しかしその雇用こそが、彼の事業のネックとなった。従業員はみな給料だけでは満足せず、「自分の儲けを探す」。悪事を働かない場合でも、長年働き信頼していた従業員が独立し、身に着けたノウハウを活かし、同じ事業を始めることもあった。人を育てても、その従業員はのちにライバルになるかもしれないのである。
1996年に、フランスに留学中に購入したマッキントッシュ一台で、雑誌編集の仕事を請け負っていたRさん。彼は今や、カメルーンで一番大きな印刷会社の経営者となっている。郊外に高価な印刷マシーンを導入し、多くの従業員を雇う。Rさんも、「そのような裏切りには事欠かないよ」と笑う。何人もの従業員が、会社のカネを持ち逃げし、やめていった。さらに彼が育てた従業員の数名は、それぞれ中規模の印刷業を始めている。彼らの事業もそこそこうまくいっているようで、紛れもないライバルである。しかし、自分の会社の規模にはかなわないという余裕もあるのだろうか、Rさんは、自分が育てた人たちがそれぞれで頑張るのは良いことだという。「僕のような規模の会社がカメルーンに100出来たとしたら、カメルーンは変わると思う」。彼は、自分の仕事だけでなく、カメルーン経済、社会全体を見ていた。
従業員が独立をし、自分の事業を立ち上げること。それは悪いことばかりではない。ごく一握りの大きな会社が利益を独占するのではなく、大きくなりかけた企業ははじけ、小さな無数の企業になる。大きな視野でみれば、Rさんのいうとおり、それはカメルーン経済を活性化しているのかもしれない。さらにいえば、その営みは、ある種のワークシェアリングであると考えられないだろうか。
(参考文献)
・Ndumbe III Kum’a 2007 “Avant-propot” in K. Ndumbe III (ed.) Stratégies de survie des populations africaines dans une économie mondialisée, AfricAvenir/Exchage & Dialogue.
・Fodouop Kengne 2007 “A travers le temps et l’espace” in K. Ndumbe III (ed.) Stratégies de survie des populations africaines dans une économie mondialisée, AfricAvenir/Exchage & Dialogue.