[海外出張報告] 大山修一(開発・生業班)イタリア 海外出張期間:2019年5月14日~18日

「イタリア・ローマFAO本部 土壌侵食シンポジウム参加・発表」
大山修一

(派遣先国:イタリア/海外出張期間:2019年5月14日~18日)

2019年5月15日から17日まで、国連食糧農業機関(FAO)のローマ本部で開催された「土壌侵食シンポジウム2019」(GSER19 Global Symposium on Soil Erosion)に参加した。参加者は500人以上、発表件数はキーノート・スピーカー、招待講演者、口頭発表、ポスター発表をふくめて150件ほどの大きな国際シンポジウムであった。

このシンポジウムの趣旨は、YouTubeでわかりやすいアニメーション(2分12秒、英語)がインターネットにアップされている。その内容は、以下のとおりである。
https://www.youtube.com/watch?v=MSbbl5lpmik

地球上では毎5秒ごとにサッカー場1つ分の土壌侵食が引き起こされ、雨や風、農業によって進み、もっとも肥沃な表層土壌を流し出しています。土壌侵食によって、食料生産が影響を受け、生産される農産物の量・質ともに劣化します。食料生産は今後、50%にまで低下すると懸念されています。土壌侵食を受けた土地は水を受けつけず、雨水が洪水や斜面崩壊、地すべりを引き起こします。風で飛ばされる砂は人間の健康被害を引き起こし、地中に存在する重金属が露出し、土壌汚染を引き起こします。

土壌は炭素の貯蔵庫ですが、表層土壌の流出により、炭素が二酸化炭素として放出され、気候変動にも影響を及ぼすほか、土壌がないため気候変動の影響も受けやすくなります。土壌中には多くの生物が生息していますが、その多様性も失われることになります。自然界が厚さ2-3cmの土壌を作るのに1000年かかったといいますが、われわれ人類は急速なスピードで土壌を失っています。

この土壌侵食の重要性を認識し、その対処を考えるというのが、シンポジウムの趣旨であった。わたしは、「サヘルにおける土壌侵食から土壌の堆積へ:都市の有機ゴミのリサイクルと土壌侵食地への投与」と題して発表をおこなった。わたしの発表は、ニジェールにおける土壌侵食が飢餓や貧困を引き起こし、農耕民と牧畜民が武力衝突をしていること、大きな貧富の格差と貧困ゆえにテロが生じていること、そしてその解決のために、ニアメ市のゴミを使って緑化をし、人々の平穏な暮らしをつくるという、これまで20年ちかい活動を紹介するものであった。この都市のゴミを利用して荒廃地の環境修復を進める取り組みは、現地に居住するハウサの農耕民の生態的知識を応用していることを説明した。

聴衆からは、都市のゴミで土壌侵食を止め、緑化ができるということにショックを受けたというコメントを受け取り、大きな反響を受けた。また、発表のなかではニアメ市のゴミの重金属や有害物質の分析結果も示したが、人間の出すゴミに対する有害性への懸念が根強いことも、改めて理解できたが、その返答として現地の人々の知識や環境認識、日々の営みから学ぶという姿勢の重要性を説明し、先進国や外部社会からは理解できない砂漠化の深刻さとともに、ゴミを有効活用し、砂漠化問題を解決しようとするニジェールの人々の「アフリカ潜在力」を強調した。

FAOのシンポジウムでは、学者が参加する国際学会とはちがい、ワーキング・ドキュメントを作成するということをひとつの目的にしている。国連は各国の政策に介入することはできないが、このシンポジウムは科学者の知見をもとに提言を作ることが目的のひとつにあり、わたしが参加したのは、セッション2「土壌侵食を止める政策」で、提言を作成するという色合いが濃かった。

さまざまな国・地域の自然条件、政策の歴史、人口、市場へのアクセス、農業や牧畜の経済活動が異なり、フィールドにおけるデータの収集とデータベースの構築、現状を表現する再現モデルの構築の継続、地域・国家、グローバルに対応していくためのデータづくりと政策提言の重要性を確認するという、結論は「まるいもの」になったが、都市のあり方を考え、土壌侵食を抑止する資源として都市の有機性ゴミを検討することが提言のなかに入った。われわれが安全性と清潔さ、利便をもとめる生産物は消費されたのち、その残骸である廃棄物には危険性と不潔さ、そして無用が強調され、うまく自然界に戻せていないのが実情である。ニジェールのわたしの活動が、世界各地で適用できるとはとても思えないが、人類―とくに都市を生態系のなかに位置づけることは今後の持続性を考えるうえで必要である。

シンポジウムの様子(Global Symposium on Soil Erosion, FAO 2019年5月15日―17日)

発表スライド(共同発表者は、東京外国語大学の桐越仁美さんとニジェール気象局のイブラヒム・マンマンさん)。この発表スライドは以下よりダウンロードできます。
https://www.slideshare.net/ExternalEvents/from-soil-erosion-to-soil-accumulation-recycling-urban-organic-waste-to-the-eroded-land-in-sahel-west-africa

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