「アフリカの児童書:作家・挿絵画家へのインタヴューから」
村田はるせ
(派遣先国:イギリス・ロンドン/セネガル・ダカール/海外出張期間:2017年11月15日~12月12日)
私は、西アフリカのフランス語公用語圏諸国出身の作家・挿絵画家が手がけた児童書に関心をもっています。この地域の児童書の出版と創作に大きな貢献をしてきたのが、コートジボワール人作家・児童文学作家・挿絵画家で、現在はロンドン在住のヴェロニク・タジョ(Véronique Tadjo)氏です。彼女は、アフリカの伝統的な文化に根差したお話を絵本に書き、自国の出版社から発表しました。まだこの地域の国内出版社で児童書がわずかしか出版されていなかった1990年代のことでした。これをきっかけに、児童書出版の流れがまずはコートジボワールで起きていきました。現在ではベナンやセネガルでも毎年次々に児童書が出版されています。
タジョ氏は、アフリカ各地でのワークショップを通して、児童文学作家・挿絵画家の育成にも携わりました。子どものために書くことは、彼女自身にとっても大きな喜びだそうです。また現代の子どもが世界とつながって生きるためには識字能力がどうしても必要なので、子どもが楽しく文字の世界に入れるよう手助けをしたいとも語っていました。
タジョ氏の作品には、コートジボワールで2002年から約10年内戦が続いた時期に書かれた絵本『アヤンダ 大きくなりたくなかった女の子(Ayanda, la petite fille qui ne voulait pas grandir)』(2007)があります。ここには、お父さんを戦争で亡くした女の子が、長い時間をかけてようやく笑えるようになるまでが描かれています。タジョ氏は、心とは段階を追って回復していくのだということを書きたかったとしています。彼女はこうして、戦争で傷ついた子どもの心に寄り添おうとしています。またこれは、物語を通して、現実に起きていることについて子どもに考えさせる本となっています。
さて現在は、アフリカの子どももインターネットやテレビから多様な情報・知識・楽しみを得ます。こうした時代に物語の本を子どもに届ける意味を作家はどう考えているのでしょうか。セネガル人の児童文学作家クンバ・トゥーレ(Coumba Touré)氏は、伝承の再話を絵本に書いてきました。彼女は、「人間は人間の物語からもできている。私たちのなかにはたくさんの物語がある」と語りました。これはいったい何を意味するのでしょう。セネガルで出会った作家や挿絵画家は、子ども時代に多くの昔話を聞いた思い出を話してくれました。おそらく彼らは、物語を自身の体験のように心の中に蓄積し、人生の節目ごとに参照してきたのでしょう。クンバ氏の言葉は、こうして保持する物語が人間にとっていかに大切かを表現しているのではないでしょうか。いま、子どもが昔話を聞く機会はめっきり減少したそうです。しかしそれでも作家・挿絵画家たちは、物語を本に書き、人間とは何か、社会とは何かを子どもに伝え、繰り返し考えさたいと考えているのでしょう。